慣性

「死にたいなら死ねばいいと思うのよ、ボクは」

 期間限定の飲み物を片手に、けろりとそんなことを言う。

「語弊だらけの言い方をするよねえ、キミは」

 いつも飲んでいるカフェラテを机に置いて、ぼそりとそんなことを呟く。

「だってさ、この世で生きていく義務なんてないでしょ」

「生まれた以上生きるのは義務だと思うんだけどなぁ」

「そりゃそう思い込んでるだけでしょ」

 ん、まあたしかにな、と思ったので、そのまま言ったら鼻で笑われた。ちょろいな、と言われたので、君にはきっと詐欺師が天職だよ、と返した。三限半ば頃のテラスは、いつも通り人がまばらである。

「どうせ死ぬんなら後のことなんて心配せずに逝けばいいのになぁ、と思うわけよ」

「後のことって、後処理とか家族への影響とか?」

「そ。どうせこの世と縁切っておさらば、なんだったら何も考えずに死ねばいい」

「白昼堂々キャンパスで話す内容じゃないですぜダンナ。

 ……でもそれが出来ないのはやっぱり愛情とかがあるからじゃないの?ほら、好きだった人が苦しむとか想像したくないじゃん、夢見が悪い」

「別にまた目覚めるわけでもないけどね」

「でもまあ、なきにしもあらず」

 涼風が吹き抜ける。散々引き伸ばされてきた夏は、サードシーズンぐらいで打ち切りが決まったのだろう。そこから何事も無かったように季節相応に合わせてくるのは、制作サイドのミスとしか思えない。もうちょっと緩衝材的にミニシリーズとか挟んでも良かったんじゃないの、と地球様に心の中で文句を垂れる。

「ところでキミはなんで生きてるんだい」

「惰性」

 即答じゃないか、と苦笑いを浮かべる。

「まあ、死ぬときは気にせずお前の部屋で死んでやるよ」

 事故物件になるじゃないか、と言ったら、そこじゃねえだろ、と突っ込まれた。

 まあ、たしかにそれはそう。

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