夢見心地

 真っ赤な顔でお誘いを受けて、断る道理などあるまい。

 白い布団の上で、二人は互いに向き合っている。

 手始めに軽い口づけを。油断したところに、舌を深く、深く突き立てる。吐いた息がそのまま混ざる。目は閉じたまま。触覚が、聴覚が、彼女の存在を否応なしに訴えてくる。

 絡まりを解く。心音と呼吸が既に荒い。彼女はというと、とろんとした目でこちらを見ている。ぱちん、と僕の中で何かが弾けて飛んだ。

 彼女は促されるがままに、ころりと仰向けになった。半ば覆い被さるように僕も寝転がる。骨ばった指を華奢な体躯に沿わせてゆくと、時折体がぴくりと動く。そこを執拗に撫でていると、徐々に反応が増していった。見たままの状況を伝えたとき、彼女は恥じらいを見せ目を伏せた。ささやかな愉悦感。僕だけがこの顔を知っている。妙な高揚感が僕を包む。

 今度は完全に覆い被さった。甘い吐息が、悶える声が、情欲を際限なく増幅させる。理性などとうに失った。後に残るは獣の本能、ただそれだけ。体温がふれあい、互いが互いへと溶けて同化していく。心拍数が同調し、鼓動が加速する。透き通った愛情と、濁りきった色欲と、その両方とが二人ぼっちの部屋を桜色へと染め上げる。曰く、愛とは一番の媚薬である。二人、部屋の隅で快楽へと堕ちていく。


 この後どうしたものか、とベッドの上で悩んでいると、肩をとんとんとつつかれた。振り向いたら、君が目を伏せたまま佇んでいた。一瞬の静寂の後、たった一言、消え入りそうな声で言った。

「もっと」

 結局、その晩は一睡もしていない。

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