本能、故に
あはは。なにいってるのかぜんぜんわかんなーい。
苦しい?辛い?しつもんしたのにりふじんだーって、そう思ってる?思ってるよねー、おねえさんには全部筒抜けだよ。かくしごとなんてなーんにもできないよ。だからほら、こっそりあたしに見えないように連絡を取ろうとしてるのもお見通し。
えへへ、いいはんのうだねぇ。ずぼしだねぇ。
……ないてるの?さいこー。ほんとひとなみのはんのうだけど、おにいさんみたいな感じのはんのうはいくら見ててもあきないからねー。口で言わなくても、目からわかるんだよー。知ってたー?おにいさんの目には今、はっきりときょーふの色がはっきりとうかんでまーす。いいですねー、さいこうですねー。
そろそろかわいそうだから、おねえさんがおしゃべりにつきあってあげます。やさしいでしょ?だからそのテープ、ひとおもいにはがしてあげる。
あら、いたかった?ごめんなさいね。一気にはがしたのはやさしさだったのだけど。それとも、もっといたくされたかった?
……え?どうしてこんなことができるんだー、って?こんなのふつうのにんげんのやることじゃない、って?
じゃあ、ふつうってなに?あたしはあたし。あたしからすれば、あなたたちのほうがおかしいわ。
あなたたちはセックスしてきもちよくなるようプログラムされてる。でもあたしはこういうことをしてきもちよくなるようになってるの。たったそれだけ。あなたたちはあたしのすることをきもちわるいとかグロテスクとかいうけど、あたしからすればあなたたちのしていることのほうがよっぽどグロテスクよ。
……どう?まじめなはなしはつまんないからこのへんでおわるけど、こんなかんじでなっとくしていただけたでしょーかー。まあなっとくしていただけなくても、ざんねんながらここでおはなしはおわりでーす。
だってあたし、もうがまんできないの。もっとさけんで?もっとあばれて?しにたくないって、つかえるものはすべてつかって、もっともっとあたしにそのくるしみをおしえて?
まずあしからつぶしてあげる。そうすればもうにげられないわ。つぎにうでをうごかなくさせるわ。そうすればもうあなたはあきらめるでしょう?けれど、そこできをうしなうなんてそんなことさせないわ。さっきのひとはきをうしなったけど、そのあとどうしたかおしえてほしい?え、いらない?そんなこといわないでよー、きいてくれたっていいじゃない。
え?もしかしておにいさん、まちきれないかんじですか?そういうことならはやくいってほしかったわ!あたしだってもう、げんかいですもの。
じかんをかけて、いーっぱい、あいしてあげる。
部屋の外へと漏れ出す悲鳴。かつてコンクリートの色をしていたその部屋の床は、今はもう赤黒い血溜まりがこびりついて取れなくなっている。
彼女の言う通り、彼女は殺人に快楽を感じる人間だ。いや、あれはもはや人間と言えたものではない。あれは”ひとごろし”である。ヒトでもケモノでもない。生命を持ち、人の生態と寸分も違わぬ生活を送り、人の形をしているが、あれを人と呼ぶには、私はあの子の残虐性に触れすぎたのだ。
不要となった敵捕虜の処刑係として雇われた女。十八歳だが、幼い少女のような語り口。しかしながら思考は狡猾、殺人や捕虜の扱いに対する知恵は軍内随一。本来なら早く殺しておくべき危険人物だが、軍上層部がその残虐性を買っており、生かすよう通告しているために今のポストに収められている。これは聞いた話だが、彼女の監視役として呼ばれた者のうち、彼女の残虐な行いに一週間耐えられた人間はいないという。大抵は発狂か逃亡。時には自殺。あの子の行いはそれほどなのだ。
───思うに、論理の通った殺意よりも、理屈の通らぬ狂った殺意よりも、ただその行為を楽しむ純真な殺意が恐ろしい。
彼女は”快楽処刑者”。
ただ快楽を得るためだけに、彼女は今日も人を殺す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます