女は最後になりたがる
ええ、私が殺したわ。
彼が私を裏切ったのが悪いのよ。何処の骨かも分からないような女と寝て、何処にでも在るような夜を過ごして。上辺ばかりの愛情を切り売りする最低な男。そんな人間、生きている価値なんてないでしょう?
まずあの人の好きな銘柄の紅茶に睡眠薬を忍ばせたわ。そしてあの人の好きな煙草を、あの人を灰皿にして吸ってあげた。手足の自由を奪った後、あの人の好きなヴィンテージワインを飲ませてあげた。いいえ、注いであげた、と言う方が正しいのかしらね?
分かるでしょう?私はあの人を愛していたの。だから彼を哀れんで、最期まで彼の好きなもので満たしてあげた。部屋には大音量で彼の好きな洋楽と、彼が贈ってくれた香水を。鼻を突くような強い香りと、けたたましい音楽を一心に浴びて死ぬのが、女と夜な夜な踊っていた彼らしくて良いんじゃない?
それでも、彼を愛していた私でも、いや彼を愛していた私だからこそ、彼の姿をそのまま遺してはおけなかった。少しでも”彼”が遺っていたら、同情して、そして私も死んでしまいますもの。私が死んだんじゃあ復讐にはならないわ。
だから跡形もなくすり潰した。末端から丁寧に、丹念に。堪らなかったわ、あの人の叫び声。苦痛に満ちた表情。カーペットを赤黒く染め上げる血液。思い出すだけでもぞくぞくしちゃう。ああ、なんて素晴らしい景色だったのでしょう!壮観よ、可哀想よ、自業自得よ!!!
ああ、ああ、なんて無様な死に際!!!苦痛に襲われ、恐怖に怯え、歪んで歪んで歪んで歪んで歪み尽くした顔!!!完膚無きまでに破壊された手足!!!
戸惑いと怯えと苦悶と痛みが混ざり合った顔を見て私は興奮した。声にならない叫びが私を更に突き動かした。手は止まることを知らなかった。あの男にピッタリの醜悪な最期を、私が演出したの。最ッッッッ高の誕生日プレゼントだと、そう思わないかしら?
……後悔なんて無いわ。愛しているからこそ、私の手で殺したの。私以外が二度と完全な彼に出会えぬよう、破壊したの。ええ、破壊よ。殺人なんてぬるいものじゃないわ。
……そんな凄惨な殺人から愛情を感じないと、そう思うかしら?
でもこれが、これこそが私からの愛の形なのよ。だって、
彼の最期の記憶も、最後に綺麗な彼を見た人間も私。
彼はこれからずっと、最期まで添い遂げた私のモノになるんですから。
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