心臓とドナーの共通点⑪




「で、どうする? 今話したお前の過去も含めて考えろ。 お前は生きたいのか? 死にたいのか?」

「俺は・・・」


考えていると医者が病室に入ってきた。 ここは個人部屋ではなく集団部屋で、既に何人かベッドの上で寝ている。 病室へ入ってきた医者は奥の患者のもとへと向かった。


「お呼びですか?」

「はい。 ウチの子の膵臓、もう治らないんですよね? なら移植を希望したいです。 ウチの子も、元気に生きたいときっと願っています」


男の子の母親が医者に相談しているようだった。


「分かりました。 では最適な提供者を探してみます。 少し時間をいただいてもよろしいですか?」

「すぐには探せないんですか?」

「子供の臓器移植は、できれば子供からの提供がいいのです。 だけど実際、子供の臓器がそのまま子供に提供されるなんていう例は多くはありません。 

 もし提供先が決まったとしても、その後にお子さんの身体と合うかどうか検査もしないといけないので少々時間がかかるかと」

「もし、提供してくれる子供が見つからなかったら?」

「そしたら大人の臓器になります。 大人でも、支障はないので大丈夫ですよ。 僕も全力でサポートします」


二人のやり取りを豪と兄はぼんやりと見ていた。 兄もそんな二人を見つめながら言う。


「もちろんお前みたいに『他人の臓器を自分の身体に入れるなんて嫌だ』と思う人間もいる。 だけどな、あんな風に提供を望む人もこの世界にはたくさんいるんだよ」


―――・・・俺は生きたい。

―――そしてあの子供も生きたがっている。

―――でも元気に生きるには、移植が必要なんだよな・・・。


そこで清香のことを思い出した。


―――・・・そうか、清香はそういう子の力になりたかったのか。

―――たとえ自分が、もう動けなくなったとしても。

―――本当、清香はどこまでも優しい奴だな。

―――・・・だけど俺はその清香の優しさを、なかったことにしようとしたんだ。

―――清香の優しさを無にするなんて俺の本望ではない。


「俺、決めた」

「お。 どうするんだ?」

「さっきの医者を呼んでくれ」


兄に頼むと早速医者を呼び出してくれた。 兄が戻ってくると聞きたかったことを尋ねる。


「なぁ、俺の着ていた服はどこへいった?」

「あぁ、そこにあるよ。 リラックスできるよう勝手に着替えさせたみたいだけど」


近くにあるカゴを指差した。


「俺のズボンから財布を取り出してくれ。 その中に清香のドナーカードが入っていないか?」


兄は豪の指示に従い財布の中を漁った。


「あぁ、あった。 へぇ、清香さんはこんなものを書いていたんだ。 でもどうして清香さんのものが、豪のもとに?」

「俺に預かってもらうよう渡されたんだよ」


話していると先程の医者が来てくれた。 豪の担当をしているようだ。


「どうするのか、決まったのか?」

「・・・はい。 俺に肝臓の移植をしてください」


医者はその言葉を聞いて嬉しそうに頷いた。


「あ、あと、そのドナーカード。 今朝に脳死して倒れた、俺の彼女のものなんです」


兄が持っているドナーカードを指差しながらそう言うと、清香が倒れたことは初耳だった兄が驚きの声を上げた。


「ッ、はぁ!? 清香さんが脳死したって本当か?」


尋ねてくるが、今は医者と話す方が優先だと思いスルーする。


「そのカードは俺に託されました。 それを渡します。 ・・・そして、彼女の肝臓を俺に移植することは可能ですか? 他の彼女の臓器は、誰に提供してもいいんで」

「構わないが、まだ彼女さんのものが豪さんに提供できるかどうかは、検査しないと分からないよ」

「分かっています。 ・・・最初に俺と彼女の臓器の相性を調べてくれれば」

「・・・分かった、引き受けよう」


そうして細かい説明が始まった。



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