心臓とドナーの共通点⑨
数時間が経ち、豪は目を覚ますと視界には見慣れない天井が映っていた。 白い、真っ白な天井だ。
「ん・・・。 ここは、どこだ・・・?」
自分のアパートではないどこか。 ぼんやりと時間を遡っていると隣から声がかかる。
「お、目を覚ましたか。 ここは病院だぞ」
隣を見ると兄がいた。
「は、病院!? つか、どうして兄貴がこんなところに・・・」
「お前から空メールが届いたんだよ。 何事かと思って、お前の居場所を探し回ったぞ」
「空メール・・・」
そう言われ気を失う直前のことを思い出す。
―――・・・あぁ、気を失う時、うっかり兄貴宛に送信ボタンを押しちまったのか・・・。
「ちなみに、通りすがりの人が救急車を呼んでくれたらしいぞ。 お前は気を失って倒れていたんだろ? 感謝しないとな」
「・・・そうだな」
あの時死ぬことを覚悟した。 だが実際今生きていることに感謝している。 また大好きな酒を飲めることが嬉しかった。
「そういや、俺はどうして血を吐いたんだろう」
「そういう話は医者から直接聞いた方がいい。 目覚めた報告をしてくるから、大人しくここで待っていろ」
兄が医者を呼びに行くため病室を出るのを見送り、一人になって豪は天井を見上げる。
―――まだ若いっていうのに、病院送りか・・・。
ふと点滴されている腕を持ち上げてみると違和感を感じた。
―――・・・ん?
―――腕が軽い。
見ると腕が細くなっていた。
―――さっきまで溜まっていた水みたいなものがなくなっている。
―――あれは一体何だったんだ?
腕を持ち上げたり眺めたりしていると医者が入ってきた。
「おぉ、目覚めたか。 気を戻したみたいでよかった」
初老の先生だった。 豪の近くまで寄ってきて脈を診始めたため早速尋ねてみた。
「俺が気を失った原因は一体・・・」
「お酒の飲み過ぎだよ」
「酒?」
想像もしていなかった回答に驚いた。
「あぁ。 肝硬変を通り過ぎ、今はもう肝がんの末期だ」
「はぁ!?」
いつの間にそんな大変なことになっていたのだろう。 酒の飲み過ぎで死にかけている。 それは酒をもう飲めないのではないかという不安にも繋がった。
「どうしたら治せるんだよ!」
「もう治らんよ。 君が生きるには、肝臓を移植するしか手はない」
「移植って・・・」
“移植”という単語を聞き言葉を詰まらせる。
「どうしてこうなるまで放っておいたんだ?」
「・・・」
答えることができなかった。 医者は続けて説明をし始める。
「ちなみに、君の皮膚が黄色いのは肝がんの症状だからね」
「皮膚が黄色い?」
「あれ、鏡を見ていないのか? 物凄く顔色が悪いぞ」
兄が鏡を持ってきて見せてくれた。 想像以上の顔色の悪さに、自身の身体に重大なことが起きているのだとようやく気付く。
―――うわ、酷ッ・・・。
―――だから周りは俺に怯えて、近付いてこなかったのか。
医者にも顔色が悪いと注意されていたのを思い出した。
「それと、お腹や手足に水が溜まるのも症状の一つだ。 肝臓が機能しにくくなって、アルコールを分ける作業ができなくなったせいだね。 君が眠っている間に、水は全て抜いておいたから」
「あぁ、それで・・・」
先程感じていた疑問は解決した。
「吐血したのも肝がんのせい。 これからどうするのかは、家族と一緒に決めなさい」
そう言うと医者は静かにここを去っていった。
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