心臓とドナーの共通点⑥
酒を一気に飲み干し、おかわりを頼み信一に向き直る。 アルコールに逃げているわけではないが、自分の考えを整理するのに役に立つと考えていた。
「その移植って、清香自身が望んだのか?」
「あぁ、いえ。 遭難していたバスの乗客を見つけた時には、既に全員意識がなかったようです。 長い間目覚めなくて」
「そうだったのか」
「はい。 このままでは命が危ないということで、清香のご両親の意志で決定したみたいですよ」
「へぇ・・・」
「おそらく、心臓移植ができる人はみんな家族の意志のみで、移植したと思います。 豪さんが清香と同じ状況だったら、きっと豪さんのご家族も同じことをしていたでしょう」
少し考えてから否定した。
「・・・いや、それはねぇな」
「え、どうしてですか?」
「昔だったら分からないが、結局親は俺を突き放して捨てたからさ。 きっと今だったら俺は見殺しにされているだろ」
「あの、聞いてもいいのか分からないんですが・・・。 どうしてそういう風に思うんですか?」
「今は清香の話だったけど、俺の話になってもいいのか?」
「はい。 随分と喋り過ぎてしまったので」
「そうだな。 俺が二十歳になった時の話だ。 二十歳になった瞬間、俺は兄貴に勧められて初めて酒を飲んだんだ。 それがきっかけだった」
「・・・はい」
「で、その酒が物凄く美味くてさ。 あっという間に酒にハマっちまって。 どんどん飲むようになって、仕舞いには一日15本以上は飲むようになったんだ」
「え、そんなに・・・?」
流石に豪の飲む量を聞き、信一は引いていた。
「あぁ。 で、ここからは一年前の話だ」
そう言って酒を飲むとゆっくりと豪は話し始める。 話したくない過去の記憶。 清香のことを教えてもらった手前、信一にもありのままを話そうと思っていた。
今以上に酒を飲んでいた一年前、自分の部屋でやはり酒を飲んでいると父親がノックもせずに入ってきた。
「何だよいきなり。 入るならノックくらいしろ」
「おい豪。 いい加減、酒は止めろ」
父は大量に酒を飲む豪が嫌いだったようだ。
「あぁ? 何でだよ」
「お前が飲む酒の出費が激し過ぎるんだよ。 これだと家計が保たない」
「そんなもん知るか」
そう言って酒を飲む。 それを見た父が怒って部屋の中へ入ってきた。
「いい加減にしろと言っているだろ! これ以上は飲むな!」
強引に酒を取り上げる父を睨み付ける。
「ッ、おい何をすんだよ!」
「母さんから聞いたぞ。 酒を買ってこないと、母さんに手を出すんだって?」
「・・・」
「母さんはそれに怯えて毎日お前に酒を与えているそうじゃないか。 もう母さんを困らせるな」
「・・・そんなの、俺が知ったことじゃねぇだろ」
没収されたため新しい酒の缶を開ける。 それを見て呆れ果てたといった具合に父が言った。
「父親の言うことが聞けないなら、ここを出て行け」
「はぁ? 何でそうなるんだよ」
「もう既に独り立ちしている兄を見習え。 これ以上はお前を養い切れん」
「それでも父親か?」
「どの口が言うんだ。 いいか? せめて大学の費用は出してやる。 だけどあとは、自分一人で生きろ」
もうそれ以上は何も言ってこなかったのだが、父を説得することは無理だと悟った。 だが今になって豪も流石に自分がマズかったとは思っている。
依存症にDV、世間的には屑と言われても仕方のないことをしていたのだから。
酒断ちすることは簡単ではないが、その時に比べれば今の酒量は減っている。 豪はなみなみと注がれたビールの泡が弾けるのを見ながら、少しばかり後悔の念に駆られていた。
「俺は家を追い出されたんだ。 ただ怨んじゃいない。 寧ろ恨まれているくらいだろうからな」
過去を聞いて信一は恐る恐る尋ねてくる。
「・・・それから豪さんは、どうしたんですか・・・?」
「今の話の通り、俺には一人兄貴がいてな」
そう呟いて再び過去を語り始めた。
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