心臓とドナーの共通点⑤




―――幼馴染・・・。

―――確かにいるとか、言っていたような・・・?


信一という男を観察していると男はおどおどとし出した。


「え、えっと、貴方は・・・?」

「俺は清香の彼氏だ」


そう言うと信一は納得したような顔をする。


「あ、あぁ・・・! 貴方が・・・。 あの僕、清香が倒れたと聞いて来たんですけど・・・」

「清香の幼馴染なんだって? 丁度いい、ちょっと話に付き合ってもらってもいいか?」


清香の母に尋ねる信一を無視し、一方的に頼み込む。 突然な誘いだったが信一はすぐに了承してくれた。 一緒に家を出たが目的地は特に決まっていない。


「えっと、どこで話しますか?」

「そうだな。 適当に近くのファミレスにするか」


ファミレスへ行き席に着き、メニューを確認することもなく店員に注文する。 豪が飲食店に行き最初に頼むものは決まっていた。


「ビールをくれ」

「え、昼間から飲むんですか!?」


信一は驚いていた。 無理もない。 これから明らかに大事な話をする雰囲気で、いきなりアルコールを頼むというのだから。


「ん? どうした、お前も飲むか?」

「あぁ、いえ。 僕はそんなにお酒は得意ではないので」

「酒は美味いのに勿体ないな」


信一は苦笑いを浮かべている。 美味い美味くないの問題を問うているわけではないのだが、といった感じだ。 信一も飲み物の注文をすると、すぐに運ばれてきた。 

早速ビールを口にしたところで信一から話を切り出してくる。


「豪さんのことは、清香から聞いています。 でも詳しいことまでは知らなくて。 大学で出会ったんですか?」

「いや? 普通に道端で、清香が悪い男に絡まれていたからそれを助けただけだ」

「それが出会いですか!? へぇぇ・・・。 それでその後、大学が同じだと発覚した感じですか?」

「そうだな」

「運命的ですね・・・」


その言葉に豪は引っかかるものを感じた。


「もしかしてお前、清香のことが好きなのか?」


信一はぶんぶんと大袈裟に首を振る。


「いえ、幼馴染としては好きですけど。 一応僕にも、彼女がいるので」

「へぇ、そうか」

「・・・あの、遅くなりましたがお話ってなんですか?」


話をしながらも豪は酒を飲む手を止めることはない。 それはある種病気の域まで達していると言っていいだろう。


「悪いな。 これといった話はないんだ。 飲み相手・・・っていうか、話し相手がほしくてな」

「そういうことならいくらでも」


今の清香の状態を知った上で納得してくれたようだ。 新しい話題を考えてくれたのか清香の話を再び持ち出してきた。


「そう言えば清香って、小さい頃からよく身体を壊すんですよね」

「小さい頃から身体が弱かったのか?」

「あぁ、いや、弱いというか災難に身体がよく巻き込まれるというか・・・」

「どういう意味だ?」

「・・・清香は小さい頃、心臓移植を行ったんです」

「マジで?」


突然の告白に驚いてしまったのも無理はない。 そのようなことは初めて聞いたからだ。


「はい。 まだ小学生にもなっていない小さい頃、一人で田舎の友達の家へ遊びに行ったようで。 その帰り道、バスに乗っていたら山の上から転落したみたいなんです。 

 酷い怪我人がいなかったのは幸いですね。 バスが使えなくなってしまい、運転手と乗客は山を下りていった。 その先には海があった」


それも初めて聞いた話だ。 だが豪は何となく聞き覚えがあるような気がした。

豪自身も幼いころの話になるが、ニュースなどで見聞きしたのが頭の片隅にでも引っかかっていたのかもしれない。


「助けが来るまでの数日間、少ない食糧と蒸留した海水を飲んで生き延びていたそうです。 

 ・・・ただ何故かよく分かりませんが、心臓に重大な障害を負っていたとかで、心臓を移植してもらうしかこの先生きながらえる方法がなかったんです」

「そうだったのか・・・。 本当に災難だったな」

「はい。 同じバスに、歳が近い男の子も一緒に乗っていたそうで。 子供は二人だけだったから『彼に色々と助けられた』と清香は言っていました。 って、それは関係のないことでしたね」

「ふーん・・・」


それを聞き少し複雑な気持ちになった。


―――心臓を移植してもらった身だから、自分の臓器を提供することにあんなに積極的だったのか。


清香は移植により生きながらえていたのだ。 つまりそれは清香に心臓を提供してくれた人間がいたということだ。

豪は頭から否定し、あまつさえ清香が残したドナーカードを破り捨ててしまった。 それは今思えばあまりにも自分勝手で酷過ぎた。 



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