心臓とドナーの共通点④




清香の実家に着き、チャイムを鳴らすと清香の母が出てきた。


「急に押しかけてしまってすみません。 ・・・清香のことで、聞きたいことがあって」


そう言うとすんなり中へと通してくれた。 居間まで誘導される。


「お父さんを呼んでくるので、ちょっと待っててね」


母は静かにそう言って部屋から出て行った。 何も音が聞こえない空間は居心地が悪かった。 しばらくすると母と父が一緒に入ってくる。 母は三人分の飲み物をテーブルに置いた。


「こちらこそ、急に連絡してしまってごめんなさい」


自分の正面に清香の父、父の隣に母が座った。 急な連絡というのは今朝のことだろう。


「いえ、誰も悪くはないですから。 でも本当に、清香が脳死したと聞いた時は驚きました。 ・・・脳死した原因、何か分かりますか?」

「「・・・」」


尋ねると父母共に気まずそうな顔をする。


「二ヶ月前くらいから、確かに清香は体調を悪くしていました。 だけど何を聞いても『ただの貧血だから大丈夫』って言われて、誤魔化されて・・・」


そう言う豪に母は父に言う。


「お父さん、もういいんじゃない? 豪さんに話しても」

「・・・あぁ、そうだな」


父はひと呼吸おいて口にした。


「三ヶ月前、清香は頭を強打したんだ」

「三ヶ月前、ですか?」

「あぁ。 それが原因だ。 大学の帰りに、向かい側から来たバイクと思い切り衝突したらしい」

「ッ・・・!」

「バイクは信号を無視して走ってきたそうだ。 それに清香は運悪くぶつかった。 清香は吹っ飛ばされ、レンガの塀に頭を強打した・・・」

「そんな・・・」

「その日、清香は酷く頭を抱えて帰ってきたらしい。 そうだな?」 


父は母に目配せをする。 父は仕事で家にいなかったのだろう。


「えぇ。 すぐに清香を連れて病院へ行ったわ。 ・・・でも、もう脳は助からないって言われて。 今はまだ平気だけど、いつか突然、脳が機能しなくなるって」


それを聞いて豪は大きく溜め息のような深呼吸をする。


「・・・どうしてそれを、俺に教えてくれなかったんですかね。 とても大事なことなのに」

「だからよ。 清香にとって豪さんは、とても大切な人なの。 心配をかけたくないから、豪さんには言わないでって口止めされていた。 今まで黙っていてごめんなさい」

「あぁ、いや、そんな・・・。 顔を上げてください」


深く頭を下げる母に慌てて言葉をかけた。 すると母は上体を起こし尋ねてくる。


「清香のドナーカード、豪さんがもう一枚預かっていますよね?」


その言葉を聞いて動揺してしまった。 自分は一枚のドナーカードを破ってしまい、どういう顔をしていたらいいのか分からない。


「・・・あ、はい、持っています・・・。 医者に、渡した方がいいですか?」


恐る恐る目を見ながらそう尋ねると母は優しく首を横に振った。


「いえ。 渡すかどうかは、豪さんに託すわ」

「いや、でも俺なんか」

「清香は大切な人を、家族よりも豪さんを選んだんですもの」

「・・・分かりました」


そう言われては頷くしかない。 清香の事情は聞けたため、これ以上長居しても申し訳ないと思い席を立った。


「話が聞けてよかったです」


帰ろうとすると玄関まで見送ってくれた。


「本当に、急に押しかけてきたのに迎えてくれてありがとうございました。 これからもう一度、清香の様子を見に病院へ行ってみます」

「あぁ。 我々も、後で向かうことにするよ」

「では、お邪魔しま――――」


父の言葉に頷いてドアノブに手をかけた瞬間、タイミングよくチャイムが鳴った。


「誰かしら?」


母のその言葉を合図に豪がドアを開ける。 するとそこには見知らぬ一人の男性がいた。 男は気まずそうにペコペコと何度も会釈している。


「あ、こんにちは・・・」

「・・・誰?」


豪が遠慮なく素直な質問をぶつけると、母が少しだけ笑顔を見せこう言った。


「信一くんじゃない! 清香の幼馴染の子よ」



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