心臓とドナーの共通点③
―――そう言えば、俺の財布の中に清香が書いたドナーカードがもう一枚入っているのか・・・。
―――どうする?
―――それも捨てるか?
―――・・・まぁいいか、考えるだけでも頭が痛い。
―――医者に見せないなら、持っていても持っていなくても変わらないだろ。
眠っている清香は今にも『おはよう』と言って起きてきそうな気がした。 だが、それはないのだと頭では分かっている。 分かってはいるが感情は事実を認めようとはしない。
―――・・・にしても、どうして清香は脳死なんかに・・・。
―――原因は一体何だ?
―――正常な人が突然脳死したっていうのは、普通でもある話だが・・・。
―――清香の場合、ずっと前から体調が優れていないようだったからな。
―――もうすぐ自分は脳死するって、予め分かっていたはずだ。
―――ならどうして俺に教えてくれなかった?
考えても出ない疑問に溜め息をつく。
「・・・清香の実家にでも行って、何があったのかを聞いてみるか」
そう呟くと立ち上がって清香の頭を撫でた。 サラサラの髪が持ち上がり、ふわりと香りが舞う。
「清香。 絶対に、死ぬんじゃねぇぞ」
静かに病室を出て廊下を歩いていると、一人の医師から呼び止められた。
「あ、ちょっと君」
「はい?」
「顔色、悪くないかい?」
「顔色? 特に、悪いところなんてありませんが」
「そう? ・・・お酒の飲み過ぎには、気を付けた方がいいよ」
そう言って去っていった。 口に手を当て息を嗅いでみる。
―――何なんだよ。
―――そんなに俺、酒臭いか?
―――いやでも、今日はまだ一本も飲み切っていないからな・・・。
酒のことを思い出したせいか急に苛立たしくなってきた。
「あー、朝からアルコールを摂っていないからイライラする」
―――・・・清香の実家に行く前に、少し酒でも飲んでいくか。
―――向こうでイライラして、暴れるわけにもいかないからな。
そう思い病院の近くのコンビニへ足を運んだ。
「いらっしゃいま、せ・・・」
笑顔で挨拶をしていた店員の顔が徐々に強張っていく。 店員だけでなく周りにいる客も引いているように見えた。 やたらジロジロと見られるが、自分を避けているようにも見える。
豪はカップ酒を一本手に取ると、そのままレジへ向かった。
「あ、あの、お客様。 お酒を飲んでも、大丈夫ですか・・・?」
「あぁ?」
「な、何でもありません!」
恐る恐る尋ねる店員に威嚇すると急いで会計をし始めた。
―――俺は今イライラしてんだよ。
―――これ以上俺を気にかけるな。
酒を受け取るとコンビニの出入り口にある小さな休憩スペースへ足を向けた。 そこで酒を飲もうとする。 だが豪が現れると、休憩所にいた人が逃げるようにして去っていった。
―――・・・ちッ、何なんだよ。
―――俺を害虫みたいに扱いやがって。
座って酒を飲んでいると、自分の腕が普段より重たいことに気付く、
―――そういや朝に走っている時も思ったけど、俺太ったか?
―――いや、清香が倒れて心が重たいせいで、身体も重く感じるのかな・・・。
だがよく見ると腕だけでなく足や腹も大きく膨れていた。 豪は細身だったのに、今はとてもそうとは思えない。
―――もしかして、これがビール腹っていうヤツか。
―――どう触っても水みたいな感触だけどな。
―――腹だけでなく腕や足にもできるとか、俺はどれだけ酒好きなんだよ。
だが豪は自分の身体の変化に特に気にも留めなかった。 酒を飲み終えるとコンビニを出て、今度こそ清香の実家へと向かった。
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