23話

亜也がところどころ塗装の剥がれた粗末なドアを開くと、冷たい風が吹き込んだ。


「屋上でお弁当を食べたかったの?」


「そうね。」


どうしてそんな返事をしたのか、真央にはわからなかったが、とりあえず彼女の後を追う。

亜也はおもむろにツインテールを解いた。

秋風に黒髪がふわりと舞う。


「…わあ、いい香り。」


「お母様に貰った香水。CHANELのALLUREよ。」


「素敵なお母さん!」


「…ありがとう。アトマイザーを持っているの。あなたもつけてみる?」


「いいの? …じゃあお言葉に甘えて」


亜也は真央の手首に香水を吹きかけた。

真央は嬉しそうに笑う。


「お揃いだ」


「…そうね。」


ふと、何かに気づいたように亜也が振り向いた。

階段へ続くドアを見つめる。

張られた曇りガラスの向こうの小さな人影が右往左往した。


「やっぱり着いてきていたのね。」

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