夏井彩美 ①

私はあの日の出来事をきっと忘れないだろう。

今でも時々夢に見る、甘酸っぱい思い出。



陽炎が立つほど暑い夏の日のことだった。

私は屋上にいた。

死をもって償おうと考えたのだ。


軟式テニス部所属の私は、先輩たちの引退試合でミスをし、チームを初戦敗退に導いてしまった。

号泣する3年生。

自分のせいでこうなったと、すぐには実感が湧かなかった。

その後当然のように始まる嫌がらせ。

テニスシューズに画鋲を入れられたり、ウェアを鋏で切り裂かれたりと、何とも子供じみた在り来りなものだった。

それでも、胸が苦しくなった。

だが心のどこかで、仕方がないことだと諦めてもいた。


毎日毎日飽きもせず繰り返される嫌がらせに心は限界に達し、授業をサボって屋上へ向かった。

フェンスを乗り越え、眼下を眺める。

4階って思ったより高いな。

妙に落ち着いた頭でそう考える。

背でフェンスを掴んでいた両の手を離す。

支えを失った体は、少しバランスを崩すとアスファルト目掛けて真っ逆さまに墜ちていきそうだ。


あと一歩。このまま足を一歩踏み出すだけ。

このまま……



「待って。」

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