須田川亜也 ②

長子は男でなければならない、という掟を守ることができなかったお母様は、大変圧力を受けていたそうだ。

私が2歳になってすぐのことだ。

お母様は無理をして私の弟を産み、その生涯に幕を下ろした。


5歳の誕生日。父から呼び出され、お母様の指輪と莫大な金額の入った通帳を渡された。

新築の一軒家に数人のメイドと暮らし、初等部から高等部まで設置されている聖モーリノブ女子学院に通え、とのことだった。

通帳の金は好きに使っていいらしい。お母様の指輪は…せめてもの償いだろうか。


自由を手にする代わりに、条件が与えられた。

学院を卒業したらすぐに結婚すること。私には既に許嫁がいるそうだ。

つまり私の苗字を早急に変え、その存在をなかったことにしたいのだろう。

つくづく卑怯な奴らだ。


同居するメイドによると、弟は私の存在を知らず、自分は一人っ子で長男だと思い込んでいるらしい。

私も彼の顔や名前を一切知らない。

だが、私は弟を恨んだことは一度もない。

何も知らずただ生まれてきた彼に罪はないのだから。

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