佐野良樹 ⑤

放課後、恐る恐る屋上へ上がると既に亜也が待っていた。


「ちゃんと来てくれたのね、嬉しいわ。」


彼女は冷ややかに口角を上げる。


「ぼ、僕もその、聞きたいことがあったから…」


「あら、何かしら。何でも聞いていただいて構わないのよ」


深呼吸をして心を落ち着かせる。

そういえば、真央ちゃんは今日退院したっけ。

何を考えていたのか、うちのアパートに自転車ごと突っ込んだ真央ちゃん。

母が何度かお見舞いに行っていたのを思い出す。

…僕は緊張するといつもどうでもいいことを考えてしまう。


「あ、亜也ちゃん。前の学校はどうしたの?

転入が随分早かったけれど、ああいう手続きって数日では終わらないでしょう?」


「そうね、佐野くん。

…あなた、須田川財閥ってご存知?」


「須田川財閥ってあれだよね、

須田川生命、須田川建設、須田川化学…。え、これって」


僕が言い淀むと、亜也は目を細めた。


「望めば何だって叶うものよ。」


亜也が何を考えているのか大方を理解してしまった僕は、もう俯くことしかできなかった。

冷酷な彼女は日本三大財閥のひとつ、

『須田川』の娘だったのだ。

亜也はフェンスから身を乗り出して日暮れの街を眺めている。

ビル風に彼女のツインテールが揺れた。

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