佐野良樹 ④

チャイムが鳴ると、座ったままの亜也の周りに人だかりができた。

お嬢様学校から美少女が来たと既に噂になっているらしく、他クラスの生徒も窓際に集まっている。


「ねぇねぇ、どうして源五郎丸高校に来たの?」


「聖モリノーブってどんな学校なの?」


女子生徒の中の一人が、机の横に提げられた彼女の鞄に目をつける。


「え、須田川さん、この鞄って…」


クラスメイト達から繰り出される無数の質問には一つも答えず、亜也はいきなり立ち上がった。


「Diorよ、38万だったかしら。安物じゃないのよ。気安く触れないでいただける?」


彼女が鋭く言い放つと、和やかな休み時間の教室の空気が凍りついた。

続けてこう言った。


「それから、わたくしとても忙しいの。

転入生や令嬢が物珍しいのか知りませんが、特別な用が無いなら話しかけないでちょうだい。」


須田川亜也がクラス全員を敵に回した瞬間だった。

彼女は満足気に微笑んで僕に顔を向けた。


「あなたが佐野君ね?大切な話があるの。

放課後屋上に来てほしいのだけれど、構わないかしら。」


「う、うん。予定も無いしいいよ。」


彼女はとても美しいのに、その話し方は血が通っているとは思えなかった。

当たり前だが、騒動を目にした生徒達はみんな部屋の後ろに固まって、何か得体の知れない生物でも見るかのように亜也に視線を注いでいた。

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