吉本真央 ⑤

日も沈みかけた薄闇の中、自転車を押しながらゆるゆると歩く。

開けた通りに出ると、橙色がアスファルトを照らしていた。


「なんか今日疲れちゃったな。」


学校の自動販売機で気まぐれな彩美が買ってくれた抹茶オレを一口飲み、溜息を吐く。

鞄の内ポケットから鍵を取り出し、ようやく帰宅する。


『ご飯は冷蔵庫にあります』


置き手紙を確認し、ソファに倒れ込んで「オフクロ」の新曲のミュージックビデオを観る。

画面の中の男性歌手は、「直接言わなければ伝わらないこともある」と歌った。

そうだ、彩美もそう言ったじゃないか。

勢いよく体を起こし、プリーツスカートをジーンズに穿き替える。

帰って来たばかりの家を飛び出し、自転車に跨って走り出す。

妙に冴えた頭が行くべき先を示している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る