吉本真央 ③

昼食を終え、彩美と廊下を歩く。

彼女は忙しなくスマートフォンを弄っている。

彩美が手を止めてふと、顔を上げる。

視線の先には一人の女子生徒。

途端に彩美の顔色が曇り出した。


「ま、真央、教室戻ろう」


「急にどうしたの?」


「いいから!」


彩美に痛いほど強く手を引かれて驚く。

背から大声が聞こえた。


「さのせんぱ〜〜〜〜い!!!!」


急激に近づく足音。

肩を掴まれ振り向くと、眼前に弘子の顔があった。


「弘子ちゃんこんにちは、髪型がいつもと違うから気がつかなかったよ。」


「さのせんぱいはドリえもんの世界にゴルフレッスンがあったらどうしますか?」


「弘子ちゃん、私は佐野くんじゃないよ。」


彩美は弘子が苦手なのか、さっさと逃げたようだ。

弘子は同じ合唱部の後輩。

少し不思議な子として知られている。

彼女はひとしきりドリえもんの話をした後、大真面目な顔をしてこう言った。


「先輩、私佐野先輩が来ない理由知ってるよ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る