餞別(せんべつ)
「えっと……すまんロベルト。もう一度言ってくれないか?」
「あんたを俺のパーティから追放すると言ったんだ! 老いぼれて耳まで遠くなったのか?」
ロベルトは蔑んだ目を向けてきたが、俺は彼の言葉を聞き取れなかったわけではない。
平均年齢22歳というパーティの中では、確かに俺はオッサンだけれど、耳が遠くなるほどの歳ではない。
突然の追放宣告に、頭の理解が追いつかなかったのだ。
「俺は荷物持ちとして、パーティのために一生懸命に働いてきたつもりだ……今回の
「だが、現に回復薬が無くなったよな? それはあんたが荷物持ちとして最も大切な在庫管理ができていないからだろう? あんたは荷物持ちの仕事すらまともにできない出来損いなんだよ!」
……確かに魔女の森に入ると分かった時点で、もっと大量の回復薬を仕入れておけば良かったのかもしれない。
だからそのことに関して俺は何も言い返すことができない。
だが、なぜ今なんだ!?
今ここで俺を追放することが、パーティのメリットになるというのか?
「レンさんを追放するなら、私も一緒に追放してください! 私だって、ぜんぜん皆さんのお役に立っていないのですからっ!」
元の色が分からないぐらいに汚れてしまった神官服の背中が、ぐいぐいとロベルトに詰め寄っていく。
「キミはまだ若くて将来のある身じゃないか。俺と一緒に経験を積めば、きっとSランクパーティに相応しい神官になれるよ。もしそれが無理でも……その……」
「その? 何ですか!?」
前から気にはなっていたがロベルトはセシルが苦手なのだろうか。
セシルの前では覇気が薄まる傾向があるのだ。
俺と目が合うとゴホンとわざとらしく咳払いをして、俺を指さした。
「それに引き換えレンは、その歳で未だに荷物持ちだ! あんたには将来性はまるで無い! だから――」
俺へ向けられるロベルトの態度はとことん冷めたかった。
「あんたは
セシルの口から悲鳴のような声が漏れて、よろけていく。
そんな彼女と入れ替わるように、男たちが俺を囲む。
「あんたには剣術の稽古をつけてやったけど、結局モノにはならなかったよな。レン! 最後に一花咲かせて見せろ!」
長身の剣士が俺の肩をたたいて、去っていく。
ああ、確かに彼にはいきなり剣を突き付けられることが多かったな。
あれは稽古のつもりだったのか……?
「剣の腕もなく魔法も全く使えない。そんなあんたが今まで俺たちと一緒にいられただけで、幸せな人生だったと思うことだな! これは餞別だ、とっておけ!」
そう言いながら、ガチガチの甲冑を着込んだタンクが手渡してくれたのは、どう見ても自爆用の爆弾である。
「まあ、Sランクパーティにいたって肩書があれば、どこかの駆け出し冒険者のパーティが拾ってくれるだろ。レン、頑張ってうまく生き残ってやり直せ! これは魔獣が嫌いな植物を乾燥させたにおい袋だ。餞別としてくれてやるよ!」
いや、これは魔獣を引き寄せるためにお前が持たされていた物だろう!
くそ!
どいつもこいつも、俺のことを馬鹿にしやがって!
天職だと思っていたこの仕事だけれど、俺は全然うまくやれていなかったのかよ!
誰一人、俺に対する感謝の気持ちをもっていないのかよ!
……ないよな。そりゃそうだ。
俺は仲間づくりに失敗してしまったんだ。
母さんとの約束を守るために、俺は本来の力を見せることはできなかった。
だが、そんなものは言い訳だ。
そんな力がなくたって、ほかの奴らはうまくやっているんだ。
だから……これは自ら撒いた種だ。
放心状態の俺からリュックを奪って、元仲間たちが立ち去っていく。
セシルの悲痛な叫び声は耳に届いたが、もう俺は何も反応することはできなかった。
「総員、戦線を離脱する! シェルターの動きに合わせて付いてこい!」
ロベルトの勇ましい声が、魔獣が集う魔女の森に響き渡る。
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