女神官セシル

 狼のような頭が三つもある魔獣が、戦士を治療中のセシルの背中に襲いかかる。


 治療を受けていた弓使いアーチャーが、とっさにセシルを突き飛ばし、弓を構える。

 放たれた矢は魔獣の真ん中の頭に命中するも、残り二つの頭がある魔獣の勢いは止まることなく、弓使いの体を木っ端のように弾き飛ばす。

 弓使いが立ち上がる間もなく、魔獣が前足で飛びつき、二つの口で肉を食いちぎっていく。


 地面に突き飛ばされていたセシルは、いったんは身を起こしたものの、その惨状を見て気を失ってしまった。


 弓使いが放った矢は魔獣の目に突き刺さっており、傷口からはムラサキ色の血液が流れ出ている。

 残り二つの口からは弓使いを食いちぎったあとの赤い血が、ぼたぼたとこぼれて落ちている。


 そんな魔獣を前にして、俺も気を失ってしまいそうだぜ!

 

「お前の相手は俺だ!!」

 

 腰のさやから短剣を抜いて構えると、魔獣は牙をむき出して俺に襲いかかってきた。


変換チェンジ


 右手を短剣にかざすと、刃がオレンジ色に輝く。

 

「テヤァァー!」

 

 短剣を下から斜めに振り抜くと、刃先が魔獣の鼻先をかすめた。

 そう――かすめただけだった。


 その直後に腹に鈍い衝撃を感じ、気付いたときには俺の体は木っ端のように弾き飛ばされていた。


「くそっ……せっかく短剣を魔力で強化しても、これじゃ意味がねえー! 俺はこんな所で死ぬのか……」


 だが、魔力マナはまだ残っている。

 次の一撃で仕留めればいい。


 俺は自らを奮い立たせ、ゆらりと立ち上がる。

 腹部からは鈍い痛みが走るが、見たら負けのような気がする。


「レンさん……?」

 

 背後からセシルの声がした。

 タイミングが悪いことに、彼女は目を覚ましてしまったのだ。


「ここは俺が何とかするから、お前は目を閉じていてもいいんだぜ?」


「ううん、私だってパーティの一員です! 私も一緒に戦います!」


 そう言いながら、魔法の杖を支えにして立ち上がり、細い足をふるふると震わせている。


 健気だー!

 あーっ、もーっ!

 可愛いな、おい!

 

 セシルが見ているところで、魔力は使えない。

 俺はため息を吐きながら、短剣を腰のさやに戻した。

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