沼の姫 56794

 異世界転生とはなんと便利な人生のやり直しでしょうか。一度死んだ。生まれ変わった。だからイケてる、なんていう流ればかりですとご都合なんて言われてしまいます。

 この作品もそのような視点で見れば都合のいい人生やり直しと、見られるかもしれません。しかし声を大にして言いましょう。この作品における主人公は、はじめからこのような結末を迎えるよう生まれ変わったわけではなく、その特殊な状況に転生したからこその因果によってこのようなハッピーエンドを迎えたのです。

 ではいかにして彼女が変化していったのか、私なりの考察を述べていきます。


 まず疑問に思うのは、転生する前に一度も恋愛を経験したことのない女性が転生後の世界において、絶世の美女と評されるほどの容姿を転生する前から有していたのかいなか、です。

 これは転生後の世界における基準が異なる、という説明もありえなくはないですが転生後に読んでいる同人誌に対してなんら違和感を感じていない様子から、この世界において描かれる美男美女やその価値観は転生前と後では違いがないと考えられます。

 やはりこの沼の姫のもとを訪れる勇者の一族が、みなそこで初恋を経験するほどに容姿が優れているということに疑いの余地はないでしょう。

 ではやはりこの女性は転生する前から誰からも羨ましがれるほどの女性だったのか。

 私はもしかしたらそうではないのかもしれない、と考えます。

 それは転生後の女性が沼の姫としてその生を受けたためです。

 この“沼”という設定には恐らく、特定の趣味にどっぷりとハマることを意味する「沼」という表現からきているものと思います。

 しかし、転生前の容姿に関する情報がないことから二つの可能性があります。それは、女性が趣味にしか興味がなく友達や恋人をつくろうとしなかった可能性。もう一つは女性の容姿が少なからず転生後に沼と関連付けられるような見た目であった可能性です(もし違ったらごめんなさい。この後、彼女のこと褒めまくるので許してください)。

 

 さて女性の容姿を沼だのと表現していては私の命が危ないので、ここからは彼女が沼の姫となってからの変化とその要因について考察していきます。


 考察のカギとなるのは、沼の中に彼女が生活するための部屋があること、そして沼に浮かぶカラフルなものを食べると甘いスイーツのような味であること。

 ここで実体二元論という考え方を提示します。

 これは精神と肉体のその両方が別個として存在している、という考え方です(最近、考察系ユーチューバーのお兄さんの動画を見ているからこんな難しいことも言えちゃうぞ)。

 

 この理論に基づくならば、私たちの肉体の中には別個として精神が存在している、ということになります。

 これはこの沼とその姫である彼女にも当てはまることではないかと考えました。

 つまり、沼全体を彼女の肉体部分だとするならば、その精神は別個に存在する。そう彼女が生活するなんでもある部屋、およびそこで暮らす彼女の体こそがその精神であると思われます。

 そしてこの精神による彼女の容姿は、彼女の無意識によって成り立っており恐らく転生直後は転生前と変わらない容姿であった可能性があります。多くの転生系作品においても転生した瞬間にその思考や行動原理が変化する人はそうそういないでしょう。それは肉体と精神が別個であるという実体二元論において考えるなら、転生によって肉体は変化してもその精神だけは転生前と同じ状態にあるためであり、彼女においては肉体自体が沼そのものであるため、肉体の変化を認識しずらく精神だけが独自にその体と生活空間を生み出したと考えられます。

 そう考えれば、転生した世界においてテレビやベッドにソファーなどがあることもうなづけます。それは彼女の精神が記憶をもとに生み出したものだからです。


 さて、ここまで精神と肉体が別個に存在するだの、肉体を無視して精神が勝手に体を作っただのとまるで互いに無影響であるかのように書いてきましたが、そうではないという話に移ります。

 皆さんも経験がありますでしょう。怒られて気分が落ち込んだときはなんだか体が重くなったように感じたことや、嬉しいことや楽しいことがあるとドキドキして体から元気が溢れ出すような感覚を。

 精神と肉体が別個の存在だったとしても、そこに体感的(触覚や体温、聴覚)な別離がない限り、肉体と精神は互いに影響をし合っています。


 では彼女の肉体(沼)と精神は影響しあっているのでしょうか?

 しています!


 沼の中に浮いたスイーツのような何か。それは精神によって肉体に変化が生じたものであると考えます。では、肉体に変化を与えた精神とは何か。

 それは同人誌です。


 全年齢向けから成人向けまで。ありとあらゆる作品を読み、感情を高ぶらせた彼女の精神内には甘いスイーツのような記憶が溢れているといっても過言ではないでしょう。

 はじめてのデート前夜に見る夢はまさに純白のホイップのように甘く、握った手と手は桃色に染まっている。初めてを奪われる瞬間の緊張感は、甘くも苦くもなるでしょう。

 そんなたくさんの思い出が肉体から開放されたとき、沼と溶け合い生まれたものがあれだとしましょう。それら、思い出の数々を食していった彼女の体(精神)にはどんな変化が起きるでしょうか。

 

 心は日々の生き様の現れ、とも言います。

 純粋に恋愛にいそしむ男女の感情を直接精神に与えっていったからこそ、彼女の体(精神)は美しくなったのだと考えます。

 勇者の一族が男女問わずみな彼女に初恋をするというのも、彼女の好むジャンルがGL(ガールズラブ)、BL(ボーイズラブ)問わずなんでも読んでいたために中性的な容姿に変化した可能性も考えられます。

 


 どうでしょうか。

 この物語もまた異世界転生というジャンルではありますが、無条件に容姿端麗になっているわけではない(私の考察によれば)のだと思います。

 ここまで裏設定を盛り込んだ作品もなかなか珍しいとは思いませんか?

 今回はちょっと不思議なパンチを繰り出してみました。

 いかがでしたでしょうか。


 ネコパンチ♡

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