93 魔法戦、開始!
この間のハロン戦でみさぎが使った時には白い光を見せていたその剣は、今彼の手中で赤く色を付けている。使う人の魔力に応じて姿を変えるのが、魔剣士の剣の特徴だ。
今から彼と戦うんだと思うと、気分が
みさぎは緩みそうになる口元をきゅっと締めて、両手を前へ伸ばす。
リーナの頃から今まで何万回と唱えた
白い文字列の底から、落ちるようにロッドの持ち手の部分が現れる。
みさぎがそれを両手で握り締めると、今度は魔法陣が上昇して、弾けた光が先端の球に青白い光を与えた。
リーナのロッドもまた、ダルニーが作ったものだ。
リーナがウィザードの称号を得た時に与えられたもので、
みさぎは自分の背より少し長いロッドを智へ向けて構え、背後を
すぐそこに湊と咲がいる。二人はどんな顔をしているのだろうか。
心配なんてして欲しくない。勝ち試合を余裕の気持ちで見られるくらいにならなければと思う。
智への最初の攻撃は、来るときの電車の中で決めていた。
「いい、みさぎ。貴女はリーナなんだよ? ちゃんと思い出して」
みさぎは自分へ小さく声を掛ける。
この間のハロン戦は全く戦うことができなかった。だからこれは、ターメイヤで雨に打たれたあの日以来初めての実戦だ。
「リーナ、準備いい? 三つ数えたらスタートね」
「分かったよ、智くん」
みさぎは智に手を振った。
お互いに魔力を上げて、最初の一打に備える。
「私は、戦えるよ」
リーナとして、ウィザードとして、みんなを守る存在でありたい。湊とは恋人として対等であればいい。
それ以下の自分だけは認めたくない。
緊張の汗を握り締めると、智が合図をくれた。
「じゃあ行くよ。三、二、一」
カウントが終わるのと同時に、みさぎは文言を唱えた。
ぐるりと回したロッドの球が頭上に大きく魔法陣を描いて、みさぎは「行けぇ」と先端を地面へ振り下ろす。
広場にキンと高い音が響いた。
魔法の叫び声だと、昔誰かが言っていた気がする。
それが歓喜か悲痛かは分からないけれど。
球の動きに導かれてドンと土に叩き付けられた円形の文字列は、白い炎を立ち上らせ、勢いのまま智へ向かって地面を駆け出した。
広場全体を
対して赤い光は智の前に壁を築いた。
智は右手に
赤い光が白い炎の進行を
激しく音を立てて衝突した互いの光は、ピンク色の炎を吐き出して壁を交互へと突き破った。
白い炎は智を襲い、弾けた壁の破片はピンク色の炎をみさぎへと降らせる。
短い文言と同時にロッドの先端を振り上げると、今度はみさぎの前に白い壁ができる。そこへグシャリとぶつかった桃色の光は水玉模様を貼り付けて溶けた。
智は軽々と横へ跳び、攻撃を避ける。地面へ落ちた白い炎は、ゴオッと音を立てて消えていく。
そこに一瞬の沈黙が起きた。
今のはほんの腕試しだ。
みさぎは智を睨みつける。
次に来るのは、剣か、炎か。
「感覚を研ぎ澄ませ」
相手の動きは気配だけでも分かる筈だ。けれど、それは
剣のリーチ、唱えてから攻撃までの時間──
「がんばれ、みさぎ」
自分への鼓舞を繰り返す。ブランクを取り戻すのは容易じゃない。
曲線を描いて飛んできた炎をギリギリでかわす。
ここまでは予定通り。
みさぎは次に左手の甲を確認した。
「いける」と確信して、別の文言を唱える。それはみさぎが初めて音にする言葉だ。
ロッドについた青白い球が声に呼応して光り、みさぎは持ち手の先で軽く地面を突く。
智はこれに気付くだろうか。気付かなければいいと思う。
水溜まりに波紋を描くように魔法陣が地面に広がって、土の色へ
「うまくいきますように」
小さく笑んで、みさぎは再び智へとロッドを構えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます