15 二人きりの保健室
「大丈夫、一人で行けるよ」と言ってみたものの、みさぎは
怪我の具合はと言えば、少し痛みはあるが
そっとスタート地点に目をやると、心配して騒ぐ
「行こう、みさぎちゃん。保健室まで案内してね」
智に
少しだけ、心が痛んだ。
☆
「あれ、先生いないのかなぁ」
校舎一階の保健室。
ぴたりと閉められた扉を何度叩いても返事はなかった。
智がそろりと扉を横に滑らせて、「失礼します」と中に入る。
いつも机で仕事をしている養護教諭の佐野
「じゃあ、私ここで待ってるよ」
二人きりと言うシチュエーションに、みさぎは気まずさを覚えたが、
「先生来るまで俺も居させて」
智はそんなことを言って奥へと入って行く。
「えっ」とみさぎが入口で足を止めると、智は肩越しに振り返って
「サボらせて、ってこと」
そんなことを言われて、急にみさぎの緊張は
意識しすぎだと自分に言い聞かせて彼を追い掛ける。
「けど、俺やっぱり保険の先生呼んでこようか? 職員室とかにいるんじゃないかな」
「ううん、待ってようよ」
体育の授業をサボりたい気持ちなら、みさぎも同じだ。校庭に面した窓の奥には、ハードルを飛ぶクラスメイトが小さく見える。
二人きりだという緊張よりも、少しでも長くサボる方を優先してしまう自分がおかしくて笑ってしまった。
「みさぎちゃんがそう言ってくれるなら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
智は長い
みさぎは「ありがとう」と
「そういえば、智くん昨日バンソーコしてたよね。ケガでもしたの?」
みさぎは自分のおでこを指差す。昨日智が
「あぁ、素振りしてたらちょっとね」
「素振りって野球の?」
「いや、剣の。まぁ本物ではないんだけどさ」
「すごい、修行してるんだ! 湊くんと?」
「湊とは昨日初めて会ったから、一人でだよ。確かに修行みたいな感じなのかな。みさぎちゃんは漫画みたいなの想像してる?」
恥ずかしそうに
みさぎの中の『修行』といえば、汗水流してひたすら戦う訓練をしたり、重いタイヤを背負って坂を駆け上ったりする熱血系だ。
「みさぎちゃんの思ってるのとはちょっと違うかもしれないけど、まぁそれなりにね。記憶を戻したのが最近で、そこから始めたから結構
「リーナさんのお兄さんとだよね?」
「そう、ヒルスと。あの頃はそれこそ漫画に出てくるような鬼教官がいてさ。いっつも横で眉間に縦スジ入れて
智は眉間を指差して、その鬼教官とやらの真似をする。
「兵学校って、士官学校みたいなやつだよね? わぁ、ファンタジーの世界だ」
兄・
「けど、その鬼教官もルーシャのことだけは苦手だったから、色々面白かったんだよね」
そう言うと本当に楽しそうに智は笑った。ルーシャと言うのは、智と湊をこの世界に転生させた魔女の名前だ。
「あの頃に習ったことを思い出して、自分なりに色々試してる。けどこの間、やりすぎちゃって近くの木が倒れてきてさ」
「偽物の剣で木を倒しちゃったってこと?」
みさぎは興奮して、前のめりに目を輝かせた。
「剣じゃなくて、魔法で。俺、こう見えても魔法使いだから」
「魔法使い!?」
急に声が大きくなるみさぎに、智は慌てて「しっ」と人差し指を立てた。
「ご、ごめんなさい」
興奮をぎゅっとこらえて、みさぎは肩をすくめる。それでも好奇心は次から次へと
「いいよいいよ」と笑う智に甘えて、
「魔法、見たいなぁ」
意のままを口にするが、智に「ダーメ」と首を横に振られてしまう。
「うぅ」
「面白いね、みさぎちゃん。そんなに興味持ってくれるの嬉しいよ。けど、ここじゃちょっと無理だって」
それでも見てみたいと思いながら、みさぎが
距離を詰めて、急に真面目な表情をする智。
「ねぇ、みさぎちゃん。俺と付き合わない?」
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