第153話 勇者PTの出立、幸先悪し

勇者が暗黒騎士に決闘を申し入れてから魔王城出立までの一週間。

そこまで自分が酷い事を言ったという自覚のない暗黒騎士はせめて最後は立つ鳥跡を残さずといった具合に勇者達と別れたいと思っていたので、

何とか関係改善しようと努めたのだが、当の勇者からは、


「あら、お気になさらないでください

 不肖の弟子のただの我儘ですので」


と、目の笑っていない笑顔と今まで聞いた事のない敬語で接せられて、その都度心に多大な衝撃を受ける事となった。


「すごくつらい」


家では勇者の冷たい視線に耐えられないので魔女の店で酒を呷りながら愚痴る暗黒騎士。 机に突っ伏して魂が抜けたようになっている。


「遅めの反抗期かしらねぇ? 騎士ちゃん、貴方何をやったの?」


相談に乗っていた魔女、剣士、魔法使い、魔族娘の4人がそもそもの経緯を暗黒騎士に問い質す。


「むぅ…ここまで来ると隠し立ては出来ぬか…実は…」


そこで暗黒騎士も腹を括り、勇者との関係改善の為の第一歩として4人にあの日の経緯を説明する。

それを聞いた4人はというと、


「はぁ~~~~、それは騎士ちゃんが悪いわよ」

「そうっすねぇ、師匠は色々と分かってなさすぎっすわ」

「流石に幻滅ですの、お師様」

「単純に馬鹿ね」


皆一様に暗黒騎士を責めるのだった。


「そ、そこまでか!? 我は良かれと思って…」


実際、魔族の身の自分がいつまでも居座るよりも、夫人の幸せを願うのならばひっそりと姿を隠すべきなのだと思っていた。


「いや、そういうの別に流行らないし格好良くもないわよ騎士ちゃん?」

「んなッ!?!?」


あっさりきっぱりと魔女に否定されて動揺を隠せない暗黒騎士。


「むしろ、かなり女々しいっすよ師匠」

「ぐわッ!?」


そこに剣士の追撃。


「私も人の事を言える程の経験はございませんが、ハッキリ言ってお師様の考えは独りよがりだと思いますの」

「うぐッ!?」


真剣な表情の魔法使いには諭され、


「そういう所が童貞臭いのよあんた」

「五月蠅いぞ来年37歳独身。 お主も人の事は言えぬだろうが」


魔族娘からの言葉にはお前にだけは言われたくないと反論する。

暗黒騎士と魔族娘が取っ組み合いの喧嘩をしている横で魔女は溜息を吐く。


「そもそも騎士ちゃん。 勇者ちゃんがその話のに怒ってるか分かってる?」

「…そ、それは…我が勝手に出て行こうとしたから?」


暗黒騎士の返答に4人は同時に盛大な溜息を吐く。


「これは駄目ね。 勇者ちゃんも流石に堪忍袋の緒が切れる訳だわ」

「流石にここまでとは…残念ながら俺達じゃ手助けできないっすよ師匠」

「乙女心を一から学び直してくださいましお師様」

「ハッ、恋愛雑魚め! 私ですら答え分るぞソレ?」


助っ人を頼もうとしていた4人にまで盛大に叱られて涙目になる暗黒騎士。


「くっ、わ、分かった、自分で何とかしてみせるとも!

 後で手を貸そうと思ってももう遅いのだからな!」

「負け前提じゃねーか」


捨て台詞を残して魔女の店を出て行く暗黒騎士。

なお、結局戻るのは勇者の家なのでこの後は勇者の冷たい視線に晒されるだけである。


「どーするんすかねぇ、アレ」

「本人が自覚しない限りどうしようもないわねぇ」


ただでさえ、この後には魔王との決戦が控えているというのにコレである。

とても決戦前の心理状況ではないと改めて溜息を吐く4人であった。


そして、魔王との約束の期日までの間、暗黒騎士の奮闘は続いた。

その結果。


「ではこれで失礼します

 あ、母からは夕飯の為の油を購入してきて欲しいと言づけられてますのでよろしくお願いします」

「あ…ハイ…」


改善どころか何を如何したらそうなるのか物凄く悪化していた。


「こいつはひでぇ…」

「あぁ、お師様が見た目よりも小さく見えますの…」

「こうまで悪化させるとむしろ天才なのかと思うわ」


勇者に素気無くされて縮こまりながらお使いに出掛ける暗黒騎士の背中を見送る剣士達。


そうして、約束の期日を迎え。


「さぁ、運命によって定められた日を迎えました!

 勇者よ、悪逆非道の魔王を討ち、人界に恒久の平和を齎す時です!」


女神が手を翳して、荘厳な感じで勇者達を送り出す。

なお、別に定められてもいないし、さっき思いついただけである。

しかも、送り出しておいて着いていく気も満々である。

万事解決した際に女神の加護アピールを入れる事に余念の無いここぞとばかりの周到さ、こういう所にだけは鼻が利くのがこの女神である。


「…あれ、いつもならここで誰かしらが口を挟んでくるのですが?」


ここでいつものツッコミが来ない事に女神は首を傾げる。

しかし、それも当然の事と言えよう。


「……」


あの無駄に明るい勇者が無言だからである。

その所為で剣士達も気まずさで何も言えない状況に陥っていた。

そんな空気の中、不意に勇者が暗黒騎士に振りかえる。

それに思わずビクッとなってしまう暗黒騎士。


、転移お願い」

「ぅ…ウム、承知した」


結局、勇者と暗黒騎士の関係は悪化した状態のまま当日を迎えてしまった。

大口を叩いておいてこのザマである暗黒騎士に剣士達の目が「どうにかしてくれ」と訴えているが、それは暗黒騎士も同じ気持ちである。


『頼むから誰か何とかしてくれ』


勇者と話を聞いていなかった女神以外の面子がこう願いながら勇者達は決戦の舞台へと赴くのだった。


勇者歴16年(冬):勇者、魔王との決戦へ臨む。

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