第154話 落ち目の魔王と復活のアイツ
実の所、魔王城自体にはいつでも行く事が出来たのだが、今までは魔王軍が健在だった為に直接乗り込むのは愚策なので控えていただけなのは以前にも説明したが、
今回は魔王直々の挑発でもあった為、勇者一行は暗黒騎士の転移石で魔王城へと転移してきたのだが…
「…ものの見事に囲まれてるわよね、やっぱり」
転移してきた直後に自分達の周囲に居る無数の魔族の姿に魔族娘がやはり罠だったかと身構えるが、
「いや、それにしちゃ様子がおかしいぜ? 一向に誰も向ってくる気配がねぇ」
同じく身構えていた剣士も思わず首を捻る。
「成程な、こ奴らは見物に来ているようだ」
その奇妙な状況に納得がいったのか暗黒騎士が一人頷き、その言葉を聞いた魔族娘が溜息を吐く。
「あぁ、そういう事…まぁ、これも魔族らしいっちゃらしいわよね」
警戒を解いてさっさと歩きだした暗黒騎士と魔族娘に勇者達も慌てて続く。
「ど、どういう事ですのお師様? あの集団は無視しててもいいのですの?」
「ムッ? あぁ、そうだな、説明しておくか。
今、集結している奴らは今の魔王を見限るかどうかを判断しかねているのだ」
「ハァ? それって、その精霊王って奴を裏切るつもりって事かよ?」
剣士の呆れた様子の言葉に暗黒騎士は魔族娘を指さす。
「現に其処に見限られた代表がいるではないか」
「うっせぇわ!! まぁ、魔族なんてこんなものよ、基本ノリで生きてるから落ち目の魔王に着いて今後美味い汁を吸えるのかの方が大事だろうし」
暗黒騎士に怒鳴りつけつつ、魔族娘も肩を竦める。
「フッ…所詮は脳筋が9.9割の魔族です。
私の信徒たる人族とは比べるべくもないですね」
「いえ、あまり人族も魔族を馬鹿に出来るほどではないと思いますの」
「アッハイ…ごめんなさい」
女神の人族称賛を白けた目で眺めて釘を刺す
さしもの
そんな会話を続けながら、勇者一行は魔王城の城門を抜け、城の中へと踏み入り、
エントランスへと入った勇者が不意に足を止める。
「居るね」
「ウム、待ち伏せのようだな」
「アッ、別に騎士さんには話してないです」
「ハイ…」
勇者の冷たい言葉にしょんぼりしている暗黒騎士は置いておきつつ、勇者の警告に他の仲間達も身構える。
「流石に最後まで見逃して貰うって訳にもいかねぇか」
「まぁ、ここで成り上がろうって奴だってそりゃいるでしょうよ」
それぞれが武器を構え、周囲を警戒する勇者一行。
しかし、警戒していたが、突如、周りの光景が闇に包まれる。
「これは…結界ですの!!」
魔術に精通している魔法使いが一変した景色に仲間達に向かって警戒を促す。
そんな中で、
「フッ…ククククク…待ちわびたぞ、この機会を」
闇の中、周囲から囁くように聞こえてくる妖しい声。
「誰、隠れてないで出てきなよ?」
勇者の挑発に闇の中でざわつく気配。
それから漏れ出る感情は…怒りのようだ。
「…いいだろう、我が姿に恐怖するがいい!」
一ヶ所の闇が一際濃くなり、それが人型の姿に凝縮する。
「あ、あなたは…!」
姿を現した声の主に驚愕する勇者。
それも当然であろう、其処に居たのは…
「知らない人だ…」
「ええぇぇぇぇ!?」
意味ありげに登場したのに全く見覚えがない人物の登場に驚愕していた勇者。
一方、勇者の反応に見覚えがない人も思わず声を上げてしまう。
「いや、何で忘れているんだよ!? 私だよ、覚えてるだろ!」
「え…あ、ひょっとしてあの時のゴブリンの子供?」
「むしろ誰だよそいつ!! 私だよ、不死王だよ!!」
地団駄を踏む
「欲しいのはそういう『え、何この人、こっわ…』みたいな恐怖じゃないんだよ!
何なんだよ、お前は本当に!!」
「いや、何で生きてんのよ
そろそろ収拾つかなくなると察して間に入る魔族娘。
実際、完全に消滅させた筈の不死王が生きてこの場にいる事は疑問に思っていたし。
「フッ…良くぞ聞いてくれた(今、何か別な棘が無かったか?)。
私は自らが万が一でも敗北した場合に備えてスペアの身体を隠しておいたのさ!
だが、所詮はスペアの身体…本体と同じ位の力まで戻すにはそれはもう筆舌に尽くし難い艱難辛苦が…」
「あ、そういうのはいいから」
長い過去回想に入りそうだった不死王を強制的に止める魔族娘。
実際、そっちには興味もない。
「成程、じゃあ次はそっち対策もしておくか」
またスペアの身体で復活されても面倒なので次は封印でもするかと思う勇者。
ちなみにこの時点でも不死王にはピンと来てないが五月蝿そうなのでそこは黙っている。
「クックックッ…一度は敗北した私が何の対策も持たずに挑むと思うのか?」
「はい」
「はい、じゃないよ! 疑えよ! あるよ、備え!?
く、クソッ、落ち着け私。 こうしてペースを乱されたから前回は負けたのだ…」
「あんな間抜けな死に様はそうそうないわよ」
魅了の綱引き合戦してたら背後から心臓抉られて死ぬのは間抜け過ぎである。
「き、貴様がやったんだろうが!
まぁいい、聞くがよい光の勇者よ!
これが私が聖女の結界術を参考にして創り出した闇の結界術!!
名付けて『
聞いて驚け! この結界の中では闇属性の者の力は10倍まで高まり、それ以外の属性の者は1/10まで力が弱まるのだ!」
自慢げに高笑いを上げる不死王。
一方、勇者を除く暗黒騎士達はこの後の展開が予想出来て微妙な表情を浮かべるのだった。
勇者歴16年(冬):勇者一行、魔王城にて復活した不死王と再戦する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます