終編 暗黒騎士はずっと居た

第150話 実家に魔王がやって来た

遂に新魔王軍最後の四天王「火の火蜥蜴」をも打倒した勇者一行。

そんな彼女たちがその後どうしていたかといえば、


「ねぇ~、魔王倒しにいきましょうよぉ~、ねぇ~」

「ん~? また今度ね~」


案の定、実家でだらけていた。

ベッドに寝そべって漫画を読み耽る勇者を女神は揺すって魔王討伐を強請るが、それを慣れた様子で簡単にいなされる。

そこへ洗濯物を外に干してきて、久しぶりの家事に満足げな様子の家政夫暗黒騎士も部屋に入ってくる。


「何だ、部屋を片付けておくように申していたではないか。

 また、片付けの途中で見つけた本に夢中になっておるな?」

「やっべ、見つかっちった!」

「早々に片づけるように。 これ以上は夫人にも伝えねばならんぞ」

「は~い」


渋々本を閉じて小さめな箒を手に取る勇者。


「女神さま、邪魔」

「あ、すみません。 今避け…じゃねぇですよ!?

 何を暢気に部屋の掃除してやがるんですか!」」

「いや、だってそろそろ新年だし」

「魔王退治より新年の大掃除の方が大事!?」


部屋の中心で喚く女神を煩わしそうに眺める勇者。

一方、暗黒騎士は女神の言葉に珍しく考え込む。


「フム…しかし、女神の言う事も一理あるやもな」

「おぉ! 魔族に同意されるのは少し癪ですが分かりますか!」

「お主、本当に一言余計よな…まぁ、今が一番精霊王の奴の身辺が薄くなっているだろうしな」


相次ぐ大規模作戦の失敗と大幹部の敗北、そして先の侵略失敗の痛手は深い。

実際、竜王から伝え聞いた話では新魔王軍の求心力は大きく削がれているようだ。

だが、問題といえば、


「えぇ~、面倒臭い」


こちらの気分屋勇者の気が中々乗らない事である。

波に乗っている時はその行動力の高さで一気に物事を解決まで導くが、気が乗っていない時の勇者の能力は下手をするとその辺の冒険者でもない同性よりも低い。

野良のゴブリンの方がまだ働くんじゃないかというくらいの怠け者である。

今はその駄目な時期なようで提案してみたものの、これは無理だと察した暗黒騎士は肩を竦めて女神を見やる。


「だそうだ、これは何か切欠でもない限り梃子でも動かんぞ」

「ムムム…流石の私でも長い付き合いでこれは駄目な時なのは分かりました…ハァ~」


女神が深い溜息を吐いた時、玄関の戸を叩く音がする。


「すみません、今、お鍋を見てるので騎士様が出て貰えますか?」

「あい、承知した」


台所から夫人の声が聞こえ、暗黒騎士は玄関へと向かう。


「暫し待たれよ、今、開ける故」


暗黒騎士が戸を叩く音に声を掛けると、叩く音は素直に止まる。


「お待たせした。 押し売りなら要らぬぞ」


暗黒騎士が何の用かと思いながら扉を開くと、水色の流れるような長髪で簡素ではあるが作りの良さが分かるローブを纏った額に深い皴の刻まれた人物が立っていた。


「久しぶりだな、暗黒騎」


その人物が何か言い切る前に扉を閉める。


「あら、どんな御用だったんですか?」

「いや、勘違いだと思われる」


心当たりはあったが、そもそもその人物がこんな場所に来る筈もないので暗黒騎士は見間違いだったと結論して何も見なかった事にしようとするが、扉は何度も勢い良く叩かれる。


「あの、やはりお客様では?」


台所の夫人が不安そうにしているので仕方なく暗黒騎士はもう一度玄関の戸を開けてみる。


「おい、貴様! 何故戸を閉め」


再び戸を閉める。

直後、今度は扉を破らんばかりの勢いで叩かれる玄関。

暗黒騎士は覚悟を決めてもう一度扉を開ける。


「…何故、此処にいる。 精霊王」

「それは私も同じ気持ちだ、暗黒騎士」


約16年ぶりに邂逅した嘗ての戦友であり、今は敵同士の存在。

それが何故か大陸の隅の片田舎で行われるのであった。


勇者歴16年(冬):現魔王(精霊王)、勇者の実家に現れる。

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