第149話 さよなら、また逢う日まで(予定はない)
あの時、勇者が暗黒騎士に切り出した作戦は蕃神獣の力で巨神を地上に被害が出ない所まで運び出し、巨神が爆発する限界の所で合体を解除してそのまま離脱するというもの。
しかし、これはタイミングもシビアであり、下手をすれば自爆寸前の巨神に追いかけられて失敗する可能性も高かった。
故に他の面子と一緒にやるよりはその辺を器用に立ち回れる
実際、獅子の蕃神を除いた4体は重力による自然落下では間に合わず、巨神の自爆に巻き込まれて共に消滅してしまった。
これはミニ蕃神にも確認したので間違いない事である。
勇者から、そう言った説明を受ける魔法使いと魔族娘ではあるが、その反応はそれぞれ異なった。
「何でもいいのですわぁ~!! 勇者ちゃんが無事でよかったですのぉ~!」
勇者にしがみついて号泣する魔法使いと、
「このお馬鹿!! そういうのはちゃんと説明してからやりなさい!」
説明を受けた上で本気で怒って勇者の頭を引っ叩く魔族娘であった。
「あいてっ! んもぉ~、だって話したら絶対許してくれない所か付き合おうとするじゃん二人とも…」
「「当然よ(ですの)!!」」
頭を摩りながら悪びれもせずにそういう勇者に対して、ここだけは二人共同じ反応を見せるのだった。
結局、この日は一度メガミベースまで戻り十分に休憩した後、落下地点でそのまま地面に埋もれていた獅子の蕃神を魔族達の混乱が収まる前に回収。
それから2日ほどかけてメガミベースまで獅子の蕃神で戻ったのだった。
なお、その所為でそれを目撃した者達により巨大な獅子の怪物を見たという噂が立ってしまったのはご愛敬。
そんなこんながあった数日後。
「エェ〜、勿体ない…せめて魔族殲滅してからにしません?」
「黙れ邪女神、貴様が光属性なのが信じられんわ」
ぶつくさ文句を言う女神を尻目に勇者一行はメガミベースの前に揃っていた。
「駄目だよ、みんなで決めた事でしょ?
蕃神と、この神殿(?)は封印するって」
勇者にも嗜められて流石の女神も膨れっ面ではあるが一応は納得してそれ以上の口を挟む事は止める。
そう、巨神と4体の蕃神が消失したとはいえ、残存した獅子の蕃神とメガミベースだけでも十分に脅威の存在と言える。
これらは扱いに足りる世界になるまで封印すべきというのが勇者一行が導き出した結論である。
「確かにこの数日を此処で過ごして私も此処の素晴らしさと同時に怖さも覚えました。
今なら、此処にあった国を滅ぼした古代の国々の気持ちも何となく理解出来ます」
学者も勇者一行の決断に理解を示し、封印に同意した。
「この事は他で話すの?」
「いいえ、此処に国はあったがそれは過ぎたる力を保有していた為だとだけ」
「そっか、ごめんね。 夢だった筈なのに」
謝罪を述べる勇者に対して、学者は微笑みながら首を横に振る。
「いいんです。 それに歴史学者が嘘を吐くのはここだけの話じゃないんですよ?」
「あー、言っちゃ駄目な事言っちゃったー」
悪戯そうな笑みを浮かべる学者に勇者もニッカリと微笑み返す。
「ほな、これでみんなとはお別れやな。
次が来るまでワイもまたお休みや」
ミニ蕃神が名残惜しそうに勇者一行に別れを告げる。
「あっ、じゃあさっさとお願い」
「扱いが雑ッ!? こう、ワイにも労いの言葉とか無いの?」
「じゃあ、数々の猥褻行為未遂の件で法廷で会おう」
「埋めまーす!」
流石に本気で訴えるとは思えないが(そもそもミニ蕃神は人口精霊であるし)、
勇者ならそれに準ずる行為を一切の容赦なら行うとこの数日間で理解したミニ蕃神は素直にメガミベースの地下封印を実行に移す。
地響きと共に埋没し始めたメガミベースを前に徐々にミニ蕃神の姿も薄くなっていく。
「じゃあこれでホンマにお別れや、嬢ちゃん最後に別れのチッスを」
薄くなりつつも勇者に唇を尖らせて迫るミニ蕃神。
性根は最後まで変わらないものである。
「暗黒剣」
「ギャー、お別れまでひとでなしー!?」
が、ここでデレるほど甘くない勇者の暗黒剣が炸裂してミニ蕃神の姿は掻き消えた。
「エッ、エッ? た、倒してしまってよかったんですの?」
ミニ蕃神が消えた事に魔法使いが戸惑うも女神が補足してくれる。
「大丈夫ですよ。 あれはあくまで端末の様なものですから、本体が無事なら問題ありません」
「そーいう事」
女神からそれを先に聞いていた勇者も相槌を打ち、それを聞いた魔法使いはホッと胸を撫で下ろす。
「誰もアレの心配をしてない辺りが流石だわ。 まぁ、私もどうでもいいんだけど」
「基本、お主らそういう所はシビアであるよね」
そんな感想を漏らす魔族娘に暗黒騎士も返事を返しつつ、胸の内でそっとミニ蕃神に同情する。
やがて、メガミベースが完全に地の底へと沈みきり、始めの頃と同じ様に入口部分だけが地表へと露出している。
勇者と暗黒騎士は頷き合うとお互いに武器を構え、
「「暗黒剣!!」」
同時に斬撃を放ち、その入口を破壊した。
「あぁ〜…私の神殿…」
完膚なきまでに破壊されて残骸しか見えない入口跡を名残惜しそうに女神が腕を伸ばす。
「元な、元。」
それを未練ったらしいなコイツと思いながら暗黒騎士が手で制する。
これでこの地を調べようとする者も今後は現れないであろう。
一仕事を終えた勇者はうーんと伸びをした後に振り返り、
「じゃあ、帰ろう! 私達の家に!」
とびっきりの笑顔を浮かべて皆にそう言うのだった。
勇者歴16年(秋):勇者、蕃神を封印する。
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