第147話 雷鳴に獣は還る
2体の機神、一方は片方を羽交い絞めにし、
もう一方はその拘束から逃れようと藻掻く。
「くっ、奴め残りの力を全て籠めるつもりか!?
いかん、これではこちらの力が足りん!」
炉心を暴走させ、その全身に徐々に熱を帯び始めている巨神の力は最期だからか、むしろより強まっていく。
このままでは巨神、いや火蜥蜴の悪足掻きに全員が巻き込まれてしまう事を想像し、暗黒騎士の額を一筋の冷や汗が垂れる。
「だ、脱出を…で、でも、そうすればこの地に居る他の方が…」
隣でどうすればいいか分からずに狼狽える魔法使いの気持ちも分かる。
戦争中とはいえ、これは完全に無用な犠牲だ。
自分達だけでも助かる事は出来るが、その場合、この戦場に集まっていた者達は洩れなく巨神の自爆に巻き込まれて灰燼の中に消える事になる。
「ど、どうすんのよ!? 逃げるの、それともこいつと心中!?」
魔族娘も焦って声を荒げる。
かといって、暗黒騎士を責めるのも筋違いなのは彼女も理解しているが、どうしようもない状況でつい感情が先走ってしまう。
「決めた」
そんな中で、ハッキリとした声が響く。
その発言者である勇者は全員に顔を向けると、
「皆は降りてて」
そうとだけ告げる。
「ま、待ってくださいまし! それはどういう…」
「ミニ蕃神、出来るよね?」
「お、おぅ…それで本当にエェンやな? ほな!」
勇者が頷くのを確認するとミニ蕃神は勇者へ訴え出ようとする魔法使いを蕃神獣の外へと転移させる。
「ちょっと!! 何を急に!?」
勇者の突然の行動に驚き、彼女に詰め寄ろうとした魔族娘も続けて外へと転移させられる。
「勇者よ…お主は…」
「あ、おじさま。 そんな顔しないで?」
勇者がこれから何をしようとしているのかを察した暗黒騎士が顔を俯かせ、
それを困ったように頭を掻いて勇者は顔を上げさせる。
「それは本来は我の役回りだ。 お主がする事では」
「待った待った、誤解しないで? 死ぬ気はないからね、私?
むしろ、おじさまに任せたら不器用だからタイミングしくじりそうだし」
「…は? それはどういう?」
そこで勇者は思いついた事を暗黒騎士に説明する。
他の二人を先に追い出したのはあの二人に言えば普通に反対されそうだったからだ。
「な、成程…それならば出来そうではあるな…竜王もそれでいいか?」
「あ~…まぁ、こっちも正直限界だが、嬢ちゃんのその覚悟に付き合ってみるわ。
まぁ、しくじったら俺の嫁さんとかの事は頼むわ」
「駄目だよ、これ以上おじさまを未亡人ハンターにはさせないからね!」
「待って、それは完全に誤解であるからな!?」
勇者の作戦を竜王にも伝え、彼からの了承も得る。
危機的状況である事は変わらないが、3人はそんな話をして笑い合う。
「じゃあ、そろそろおじさまも外に出ててね。
あ、コーギーもおじさまに着いていきなよ?」
「うむ…では、必ず帰ってくるのだぞ」
「ごけんとうをいのるのであります!」
それまで黙って勇者の行動を黙って見守っていたコボルトコーギーは最敬礼を勇者に送り、暗黒騎士は勇者を見つめながらもそれ以上は何も告げずに転移を受け入れる。
そして、一人になった勇者は自分の両頬を叩いて気合を入れると光球に触れる。
「さぁ、やるよ! 一世一代の大勝負って奴だ!」
勇者が覚悟を決めていた頃、蕃神獣の外へと転移した暗黒騎士とコボルトコーギーに気づいて魔法使いと魔族娘が駆け寄ってくる。
「お師様!! ゆ、勇者ちゃんは? 勇者ちゃんはどうしましたの!?」
「ッ!? まさか、あんた一人で出てきた訳!?」
「わがはいもいるのでありますが…」
「まぁ待て、落ち着け。 コーギーの奴も何気に凹んでいるから…」
取り乱す二人を制しつつ、横でシュンとしてるコボルトコーギーのメンタルケアも行う暗黒騎士。
そんなやり取りをしていると、組み合う2体の機神に変化が訪れる。
組みつかれている蕃神獣が背中の翼を大きく広げ、大きく羽ばたかせ始めた。
やがて、組みつかれたままの状態でゆっくりと浮上し始める2体の機神。
始めはゆっくりとだったが、徐々に加速し始めてやがては高速で天空へと向かって飛翔していった。
「そんな…まさか…!」
その行為の意味する事に気づいた魔法使いが両手で口を塞いで絶句する。
「あぁ、そのまさかだ。 勇者は安全圏まで巨神を飛ばして自爆させるつもりだ」
落ち着き払った様子で暗黒騎士が勇者から伝えられた話の一部を二人にも教える。
「何落ち着いてるのよあんた!! それがどういう事か分かってるの!!
あ、いやそうか…ギリギリで転移石で脱出する気ね!」
「いや、転移石は我が持っている。 万が一失敗した時の為にお主らは脱出させるために」
暗黒騎士が転移石を見せると魔族娘も流石に予想外だったのか、口を大きく開けて唖然としている。
「そ、それじゃあ助かる手段が…」
「助かる」
それだけを絞り出すように呟いた魔族娘に対して暗黒騎士は即座にそれを否定してみせる。
「約束したのだからな」
いまや星のような大きさにまで離れたその姿を見上げながら、暗黒騎士はまるでそれを確信しているかのように一人呟く。
そして、上空で雷鳴の如き爆音が轟いた。
勇者歴16年(秋):勇者、死す(?)。
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