第146話 逆襲の巨神
巨神から放たれた赤い閃光は進路上の地面を赤熱融解させながら蕃神獣へと直撃する。
高温による爆風が視界を遮るほどの砂埃を発生させ、
蕃神獣の姿を覆い隠しているが、その場で直撃した瞬間を目撃していた魔族達や人界の偵察兵達は誰もが巨神の勝利を疑わなかった。
故にこのまま自分達もあの暴虐の化身と化した機神により、
炉に焚べる薪の様に利用されて終わるのだという絶望が戦場を覆い尽くす。
しかし、その絶望を戦場に響いた声が掻き消した。
「あ〜、びっくりしたぁ!」
まるで先程起きた光景が、子供の悪戯が成功したかの様な響きの暢気な声。
そして、晴れた砂埃の中から無傷で現れたもう一体の機神の姿。
『ば、馬鹿なッ!?』
自身の勝利を疑っていなかった巨神の中の火蜥蜴も思わず驚愕の声を上げる。
アレを喰らって無傷でいられる訳がないのは同質の存在となった火蜥蜴だからこそ分かる。
だが、完全に砂埃が晴れた時に何故無傷でいられたのかを理解した。
『け、結界だと…』
蕃神獣の周囲に網目状に張り巡らされた光り輝く結界が巨神の『破壊の
「フフフ…どないや! コレが蕃神獣の光の格子円球状結界や!」
「技名なんとかならなかったのか、それ?」
早口で言うと春と夏に話題になりそうな気がする微妙な名称だが、
巨神の破壊光線を凌いだ結界が消滅する。
「名前は変えられないんや! それよりも今ので竜王はんの魔力と過労も限界近い!
もう見せ場も十分やし、決めるでみんな!」
「見せ場言うな」
ミニ蕃神が誰に見せるつもりなのかも分からない見せ場に拘泥る辺り、
流石女神が創造した存在だけはあるなと思いつつ、
竜王が実際限界そうなのも事実なので暗黒騎士も勇者に頷きかける。
「ヨシッ! じゃあ何をすれば良いの?」
「まずは『神獣剣』を呼び出すんや!」
「え〜っと…これだね」
ミニ蕃神の指示にもう慣れた手つきで光球を操作する勇者、流石に飲み込みが早い。
勇者が操作を終えると合わせて蕃神獣の胸部に付いている獅子の頭が咆哮する。
そして開いた口腔部から刃の無い柄だけが出現する。
「何かバッチくない?」
「確かに口から吐き出されたのはあんまり見た目良くありませんの」
「無駄な演出よね、これ」
なお、勇者達女性陣には大変不評な様子。
「バッチくないもん! エェからはよ握ってや!」
ミニ蕃神の指示に嫌々柄だけの剣を蕃神獣に掴み取らせる。
それを胸の前で構えると刃のあるべき部分から光が伸び、それが硬質化して刃となる。
「ドヤッ、これが神獣剣や! カッコえぇやろ?」
「これは…悪くないな」
ドヤ顔のミニ蕃神と顎に手を当てながら感心する暗黒騎士。
「こっからそらいっぱいの必殺剣を」
「そいや!」
ミニ蕃神がここから神獣剣の使い道を説明しようとしている横で、
勇者はそれを無視して何やら光球を操作する。
その結果、蕃神獣は出現させた神獣剣を巨神に向かって全力でぶん投げた。
巨神もまさかそのまんまこちらに向かって全力で投げてくるのは予想外だったのか、
反応が送れて投げられた神獣剣がその頭部に勢いよく突き刺さった。
『ぎ……ギィヤァアァァァッ!?』
戦場全域に火蜥蜴の絶叫が響き渡る。
「ほわぁあぁぁぁぁっ!?」
なお、蕃神獣内部ではこっちはこっちでミニ蕃神の悲鳴が響き渡っていた。
「何しとんねん!? いや、マジで何しとんの!?」
「ヨシッ!」
絶叫するミニ蕃神を無視して巨神に神獣剣が刺さったのを指差し確認する勇者。
「そういえば自分の武器以外への頓着とか一切ないのだった…」
暗黒騎士は勇者のそういう偏った面を今更ながらに思い出して額を押さえながら首を振る。
『ガ……ギギ…こ、こンなモの…』
生物であれば致命傷を受けている筈の状態だが、そこは流石の機神。
そのままの状態で自らの頭部に突き刺さる剣を掴み、引き抜こうとする。
だが、それよりも早く蕃神獣が先に動いていた。
「これはおまけだよ、取っといて!」
素早く先に神獣剣の柄を握りしめ、巨神の頭部を斜めに両断する。
「ア…ガ…ガ…」
切断された片側の頭部が落下し、砂埃を巻き上げる。
巨神はヨロヨロと二、三歩後退するとだらりと両腕を力なくぶら下げた。
「実体を無くしたとはいえ、頭を断ち切られたと思えば心が死ぬか」
ここにきて火蜥蜴が巨神と融合したのが仇になった。
巨神は重大な損傷を受けてはいるが、活動自体は本来ならばまだ可能である。
しかし、その操作を担う火蜥蜴の精神は頭部を失うという被害にその精神が引きずられてしまう。
要はただの思い込み。
しかし、元生物の感覚でそれを分かっていても否定出来ないのである。
故にその心が死を受け入れてしまう。
「よっしゃ、大勝利〜!」
快諾に自分達の勝利を叫ぶ勇者がそこまで意図して神獣剣をぶん投げさせたのかまでは不明だが、結果として勝利を導いたのは間違いない。
「さて、そうなればこの巨神達をどうするか…」
暗黒騎士は思案する。
巨神はこのまま放置しておくのは難しい。
無難なのはこのままメガミベースまで運び、再封印するのが妥当だろう。
そんな風に思考を次の事に巡らせていた為にソレに気づけたのは実際に動かれた後だった。
よく観察出来ていれば予兆はあったのである。
ピクリと微かに指が動き、次に切断箇所から微かに火が着いていた。
勇者達が油断していたその時、その火は一気に吹き上がり、
切断面から炎で構成された火蜥蜴の頭部が補う様に生えてきたのである。
そして、巨神が勢いよく動いて蕃神獣を抱え込む様に拘束する。
『ハ、ハ、ハ、こ、コうナレば、きさマらゴトふきトんでヤル!」
「ア、アカン! こいつ、自爆する気や!」
血相を変えたミニ蕃神の声だけがその場に響いた。
勇者歴16年(秋):巨神、最期の悪足掻きを図る。
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