第145話 鉄と火と

戦場にて対峙する2体の古代から来る機神、巨神と蕃神獣。

本来は共通の敵を討つ為に創造された筈のそれらは皮肉にもお互いを敵として向かい合う。


『成程な、その姿こそが本来の姿か。 確かにこの巨神に匹敵する物かもしれんな』

「だったらどうする? ここで引く?」


勇者の言葉に巨神と融合している火蜥蜴が鼻で笑う。


『ぬかせ。 それならばここで貴様らを滅ぼすだけよ。

 そうすれば俺こそが最強の存在となるのだ!』

「俺こそがって…そもそもあんたのは借り物でしょ?」


拳を握り締めて叫ぶ巨神を魔族娘は呆れた様子で煽る。


『いいや、俺が…俺こそが既に巨神となったのだ!』


過去の火蜥蜴であるならば、この言葉に強い反発を抱いたのであろうが、

今の火蜥蜴はその煽りを受け流すというよりは既に自身でも境界が曖昧になってきているような様子が見られる。


「あ―…これは、な」


その支離滅裂な言動に暗黒騎士が面倒そうに呟く。


「それって、力に溺れたってやつ?」

「うむ、まぁそのようなものだ。…いや、元々そういう風に仕組まれていたのかもしれんな。 自我が壊れてしまえばいずれは元と大差はなくなるからな」


過去にも現在の火蜥蜴と同じ発想をもった者も居るかも知れない。

それを全く考慮していなかったというのも考えにくい。

故に、何者かが乗っ取りを図った際にこうなるように予め設計されていたの結果なのかもしれない。

全ては憶測でしかないのではあるが。


「せやで、ワイみたいなサポおらんとあぁなるのかもしれんのやで?

 せやからもっとワイを愛して♡」

「来世で覚えてたらね」

「それ叶える気ないやつ!?」


そうした思考を巡らしていた暗黒騎士を妨げる様にミニ蕃神が画面に映り、くねくねとした動作で軽口を叩いて勇者に一蹴されていた。

実際、こんなのでも安全装置としてみるならばそれなりに優秀なんだよなぁと遠い目でミニ蕃神を眺める暗黒騎士。


「ハッ!? おっさんがこっちを熱い目で見てやがる!?

 ワイのモテかわボディは女の子限定やで!!」

「知らんわ、邪魔をしに来たのなら黙っていろ」


暗黒騎士の視線に気づいたミニ蕃神がサッと自分の胸(?)を両腕で隠すのを、された当人である暗黒騎士は反吐が出そうな顔で眺めている。


「っーか、遊んでんな!! 来るわよ!!」


そんなやり取りをしている一人と一匹(?)に魔族娘の叱責が飛び、意識を外に向けなおせば目の前にはこちらに向かって拳を振り上げる巨神の姿が映っている。


「嬢ちゃん、盾を出すんや!」

「盾…? あ、これか!」


ミニ蕃神の指示を聞いていた勇者が光球を弄る。

それに合わせて、胸部に収納されていた象の頭部分が外れて右手に収まり、巨神の拳を真正面から受け止めた。

蕃神獣内部に居る勇者一行にも衝撃による振動こそ伝わってくるものの、主だった損傷は見られないようだ。


『ぬぅぅ!! 馬鹿な…この俺と互角だと!?』


それに何よりも驚いたのは巨神火蜥蜴のようで、自分こそが最強だと認識していた故にかなりの精神的な衝撃を受けて動揺している。


「お? これはチャンス! 食らいなよ、おじさまの象さんの鼻アタック!」

「語弊を招く言い方っ!?」


巨神が動揺から固まった一瞬の隙を突いて、今度は勇者が仕掛ける。

盾となっていた象の頭から鼻が垂れ下がるとそのまま硬化し、槍の様に鋭く尖る。

蕃神獣はその象の鼻槍を巨神の胸部へと突き刺そうと腕を振るう。

そのまま胸部を貫くかと思われたが、戦場全体に響くような金属が打ち合う耳障りな高音と火花が飛び散り、貫かれた筈の巨神が二、三歩後ろへたたらを踏んだだけで五体無事でその場に存在している。


「だ、駄目ですの!! 胸部に凹みは見えますけれど健在ですの!」


魔法使いの言葉通り、完全に貫くつもりで放った一撃だがそれでも胸部にわずかな凹みを作る程度で決定打どころか有効打にも程遠い。


「フム…力も装甲も同程度まで上昇してはいるが、これではお互いに千日手だな」


流石に互角の存在として創られた巨神と蕃神ではあるが、互角の存在故に拮抗した戦力はこの場合では悪い方向へと働いてしまっている。


「このままでは魔王軍側に無用な被害が広まるか…」


このまま決着が長引いた場合、勇者側では竜王一人の負荷がそれはもう大変な事になるだけで済むが、

巨神の場合は戦場に残存する魔族から強制的に魔力を吸い上げている為、長引けば長引くだけ魔族の被害者が増えていってしまうだろう。


『チッ、中々やるじゃねぇか…おかげで腹が空いちまった』


現に、今も自身の凹んだ胸部を修復する為だけに周囲の魔族から魔力を吸い上げ始めている巨神の姿。


「ハン、精霊王の奴らに着いた側だからざまぁみろって気持ちはあるけれど無抵抗の連中が虐殺されそうなのは気分が悪いのよね。

 ちょっと、何かいい手はないの?」


足元で悲鳴を上げる魔族達を愉悦とも怒りとも取れない何とも微妙な表情で見降ろしつつ、魔族娘はミニ蕃神に尋ねる。


「あるにはあるんやが…」


それに対してどうにも煮え切らない態度を取るミニ蕃神。


「じゃあ、さっさと教えなさいよ!!」


苛立ち、まるで取って食わんばかりの勢いでミニ蕃神に食って掛かる魔族娘におずおずとミニ蕃神は口を開いた。


「だって、いきなり必殺技撃って終わらすのはあまりにも浪漫にかけるやないか…」

「「え?」」

「え?」


その言葉に大体いきなり必殺技を撃って終わらせてきた二人勇者と暗黒騎士が、画面上のミニ蕃神と硬直して見つめ合う。


「あぁ、ちょっと!? 前、前を見てくださいの! 何か危険な雰囲気が」


勇者達がフリーズしているのを余所に巨神が両手を打ち合わせ、その両手の間に高密度の魔力を充填させていく。


『消え去れ、『破壊の閃光アトミック・レイ』!!』


そして、防衛線を一撃で崩壊させた赤い閃光が蕃神獣へと向かって放たれたのだった。



勇者歴16年(秋):巨神が蕃神獣に奥の手を放つ。

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