第144話 蕃神獣誕生!

「そもそもや、何で巨神と蕃神は2として伝わってたと思うん?」


ミニ蕃神の問いかけに魔法使いが人差し指を唇に当てながら思案する。


「そういえばその通りですの、蕃神はこの通り5体居りますのに」

「せや、その答えが1だったからや!」


勇者一行の視界に映るミニ蕃神がビシッと決めポーズを取る。


「へー」

「反応薄っす!? そこは『な、なんだってー!?』とか言うとこちゃうの!?』


勇者は物凄くどうでも良さそうな顔をしていた、あまり刺さらなかったらしい。


「冒険譚とか好きな割に、こういうのに点で興味がないのよな…」


暗黒騎士も以前、剣士と武具について目録を見ながら熱く語っていたら勇者にこんな感じの反応をされてしょんぼりとしたものである。


「いや、凹んでないで説明続けなさいよ。 ほら、巨神さんも反応困ってるわよ?」


魔族娘の言葉に他の全員がチラリと巨神に視線を向ければ、

巨神と融合している火蜥蜴としてもここから反撃に移ろうとしていたのに急に説明パートに入られたので手を出していいのかどうか困惑している様子。

こういう所で妙に律義なのが新魔王軍である。

旧魔王軍の連中だったらこの隙に殴りかかってる。


「お、そうか! なら今の内に諸々省いて指示するわ。

 先ずは皆が心を一つに蕃神を一つにしたイメージで叫ぶんや!」


すぐに他所に気が向く面子の為に丁寧に視界内にも『心を一つに叫んでください』と表示されている新設設計。


「よーし、それじゃ…みんな集まれー!」

「えっと、叫べばいいのですのね!」

「ハイハイ、わー」

「おおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「ワン! ワン!」


なお、ここまでしても逆に綺麗なまでに揃わないのだが。


「あかん…最初に掛け声を決めとくべきやったわ…えぇい、それでも変形や!」


流石にもう諦めたミニ蕃神が号令をかける。

同時に勇者達の視界に映し出される『蕃神獣』の文字。


「何だ…? 何か表示されているが…うぉ!?」


暗黒騎士がその文字の意味を読み取ろうとしていると象の蕃神は勝手に走り出した。

大きく嘶くと後ろ足で立ち上がり、身体をまっすぐに伸ばす。

次の瞬間、その首は前方に折れる様に曲げられ、首のあった場所には大きな空洞が開き、前足も左右にへし折れてまるで肩口のような見た目に変化する。


「うおぉあぁぁぁなんだなんだなんだ!?」


なお、その変化の最中に搭乗者である暗黒騎士はそれはもう凄い勢いで振り回されていたりする。


そして、まるで頭部と腕の無い全身鎧のような見た目に変化した象の蕃神に向って、鮫の蕃神と豹の蕃神が走り出し、それぞれが左右の肩口に向って飛び掛かる。

2体の蕃神は空中でそれぞれの足や胸鰭などを胸部にしまい込み、鮫の蕃神が右腕、豹の蕃神が左腕のような形で取り付き、それぞれの開口部から手が出現する。


「な、何だか雑ではありませんの?」

「われわれはほとんどへんかないでありますな!」


象の蕃神の変形を見せられていた魔法使いとコボルトコーギーは変化に備えていたが、あまりにもあっけない変化に拍子抜けしている。


「何か…急に人っぽい見た目になってきたわね…あ、次は私か」


鷲の蕃神も一声鳴くと一度天高く飛び立ち、象の蕃神達に向って降下してくる。

空中で反転し、頭を上にしたかと思えば、その頭部を胴体に収納して象の蕃神の背部に取りついた。

これで見た目はまるで神話の合成獣が人の形をとっているかのような姿である。

最後に獅子の蕃神が吠えると蕃神達に向って飛び跳ねる。

空中で両手両足を折り曲げて正方形のような形になると象の蕃神の頭部から胸部にかけて空いていた空間へと収まる。

そして胸部に収まった獅子の蕃神の頭部が吠えると、獅子の蕃神から新たな頭部が生えてくる。

獅子、象、鷲、鮫、豹の特徴を有した巨大な金属の神像が此処に出現した。


「蕃神獣、合体完了や!」


ミニ蕃神の声に応えて、5体の蕃神が一つになった蕃神獣は両腕を握り締めると高々と右腕を掲げて決めポーズを取った。


「まぁ、決めポーズは大事だよね、うん」


先程までは冷めていた勇者もこれに関しては高評価である。

うんうんと勇者が頷いているとその左右に暗黒騎士達が転送されてきた。


「アッ、おじさま大丈夫?」

「酔いそう…酷い目にあった…こんなのばかりだな、我…」

「酔い覚ましの薬があったかもしれませんの!」


突っ伏している暗黒騎士を心配そうにしている勇者と戦闘中なのも忘れて鞄を漁り出す魔法使い。


「いやいや、後回しにしなさいよ。 ほら、前」


溜息を吐きつつ、魔族娘が前方を指さす。

其処に映っているのは合体が終わるまで律義に待っていた巨神の姿。


『な、何だと…合体したとでもいうのか!?』

「いや、まんまその通りだね。 ていうかわざわざ待ってくれたんだ」


先程は困惑もあったから動かなかったのだろうけど、今回は完全に見逃される形になっている事に気づいた勇者が巨神に尋ねる。


『フン…愚問だな。 その程度の力が集まった所で何も問題ではない事と…』


巨神の言葉にその場に居た者全員が息を呑む。


『浪漫を潰したら男が廃るんだよ!』

「分かる」

「それだな」


巨神=火蜥蜴の浪漫発言に勇者と暗黒騎士は頷いている。

一方、魔族娘は一人だけ更に冷めた気持ちになるのだった。


勇者歴16年(秋):蕃神獣、合体する。

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