第136話 伊達姿巨大遺跡(だてすがた きょだい いせき)

竜王の協力を得る事に成功した勇者一行。

早速、『女神の洞窟』へ戻ろうとしたのだが、それを竜王が待ったをかける。


「ムッ、何故だ竜王よ。 あまり時間もないというのに」

「駄目だ、こればっかりは譲れねぇ…チビ達が寝る時間だ!」


迫真の表情の竜王。


「アッ、ハイ…ハイ? いや、寝かせておけばいいではないか…」

「駄目だ。 チビ達が自分らも蕃神が見たいって聞かねぇ!」

「………あぁ、うん」


ここで機嫌を損ねて折角得た協力を白紙に戻されても困るので仕方なく竜王の自宅に一泊していく事になった。


「よっしゃ、じゃあ、お前らもちゃんとこの姉ちゃんたちに挨拶しろよ!」

「「「「きょうはよろしくおねがいします!」」」」


翌日、竜王が自分の子供達を連れながら勇者達の許へ現れる。


「おー、元気だね!」

「えっと、こちらこそよろしくお願いしますの?」

「いや、もうこれただのピクニック気分なのでは?」

「我もそう思う」


若干どうでもよくなりつつある暗黒騎士が虚無顔のまま転移石を掲げて『女神の洞窟』へと転移する。


「さて、竜王よ。 内部は罠とかあるので子供らは後ろに…」

「「「「うわーなんだこれすげーーー!!」」」」


暗黒騎士が振り向いて竜王に内部の事を説明しようとするも、

それを子供達の歓声が妨げる。


「いや、そんな大それたものでは…何だこれ?」


子供達が遺跡の入り口程度で何故そこまで興奮するのか理解出来ずに振り向いた暗黒騎士の視界にとんでもない光景が飛び込んでくる。


以前、『女神の洞窟』があった筈の場所には逆三角柱状のやたらと色彩が派手な建築物が出来上がっていたのであるから。


『あ、勇者さん達! お帰りをお待ちしていました!』


謎の建築物から学者の声が響く。

しかし、その姿は見えない。


「え、何これ? あの学者が変身した? いや、変形?」

『ち、違いますって! 私はこの建物の中から、今、皆さんに呼び掛けてるんです』


まるでこちらの姿が見えているかのような様子で話しかけてくる学者の声に暗黒騎士は展開に着いていけずに混乱している。


「おや、まさかこれは『メガミベース』! まさか完成していたのですか!?」

「また貴様の仕業か、女神!」

「仕業って何ですか失礼な! これは蕃神の制御用に建設していた秘密基地ですよ!

 まぁ、途中で飽きて放置してたのですが…信徒のみで完成させていたとは!」

「貴女、本当そういう所よ?」


暗黒騎士と魔族娘は女神の後半の発言に呆れ、勇者はメガミベースなる不審建築物に目を輝かせ、魔法使いもその超技術に興奮している。


「す、凄いですわ…! この外壁、ドワーフだけが錬成できると言われている鉱石で出来ておりますの! 今ではとてもじゃないですけれど再現できませんの!」


鼻息を荒くしている魔法使いの横で子供達もはしゃいで外壁に名前を書いたり、うんこ描いたりしている。


「お前ら、一応、何か歴史的に凄いものらしいから悪戯するんじゃない!

 悪ぃな女神さん。 後でちゃんと拭き掃除させるからよ?」

「フッ、まぁ子供のする程度の事でこの女神は一々腹を立てませんよ?

 あっ、コラ! 鼻くそを付けるんじゃないですよ!」

「前言撤回が早すぎるだろ、お主」


少しの間、そうやってドタバタ騒ぎを起こした後、子供達も落ち着いた様子なので改めて勇者達が建物に近寄る。


「でも、これどうやって入るの?」


勇者が外壁を軽く叩く。 一周したが、入り口らしきものは見当たらなかった。


『あ、お待ちください。 今、お開けしますね?

 あ、このボタンを押せばいいんですね?』


学者の声の後、突如、外壁の一部が軽い音を立てて左右に開く。


『どうぞ、そこからお入りください』


学者の声に導かれて勇者達が建物の内部へと踏み入る。

しかし、すぐに何もない小部屋へとたどり着くが、

全員が踏み入った瞬間に足元の床が輝きだす。


「こ、これは…転移陣か!?」


驚きの声を上げるのも束の間、気づけば暗黒騎士達は見た覚えのある場所へと転移させられていた。

以前来た時は薄暗く、周囲を見回すのも難しかった筈の蕃神が封じられていた場所である。

しかし、今では部屋全体が明るく照らされており、5体の蕃神の姿もハッキリと見て取れる程になっている。


「おぉ、待っとったでマイマスター! 貴女の可愛いしもべのこのワイにハグを…うぎゃぁぁぁぁ!?」


勇者の姿を認めるなり飛び掛かってきたミニ蕃神を片手で受け止めてそのまま握り潰す勇者。

周囲を見回して学者の姿を確認すると、

ミニ蕃神を投げ捨ててそちらへと走っていく。


「ねぇねぇねぇねぇ!! 外のアレどういう事!? 私達が居ない間に何があったの!?」

「あ、圧が凄い…! いえ、私はお手伝いしただけでミニ蕃神さんの指示に従って操作したらこの遺跡が地下から地上へと浮上したみたいなんです」


グイグイ迫る勇者に気圧されながらも学者があの後に起きた事を勇者に説明する。


「いえ、凄いですよこの遺跡は。 今では失われた人魔協同の技術の結晶です!

 ただ、その所為で何故のこの国が滅びたのかも理解出来ましたけど…」

「確かにな、この様な力があれば周囲の国も自身の存続を危ぶむというもの。

 過ぎたるは及ばざるが如し、か」


最初は興奮した様子だった学者も、それ故に何故これほどの技術があった国が滅びたのかを理解してしまい、後半の声はあまり力がなかった。

暗黒騎士はそんな学者を慰める様に肩にそっと手を乗せる。


「そうだなぁ、巨神の件が片付いたら此処はもう一回埋めちまった方がいいだろうな。 こいつはアレだ、


蕃神を前に再度興奮している子供達を視界に収めつつ、竜王もこの遺跡の危険性を口にする。


「……アレ、もしかして此処が滅びたのってこれ造らせた私の所為?」

「そうだが?」

「ショッキング!?」


500年越しに自分のやらかしに気づく女神だった。


勇者歴16年(秋):メガミベースが地上に出現する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る