第135話 試練開始、お使いせよ!

竜王が手を貸す条件として勇者達に課した試練。

それを達成する為に勇者達は人界と魔界を右往左往とさせられていた。


「お、みっけ! アレだよね、この火山にしか生えてない火炎林檎って?」

「えぇ、貸して頂いた文献の挿絵とも一致してますの!」


勇者が断崖を器用に登りながら、崖の隅に生えている樹木へと手を伸ばす。

あと少しで手が届きそうといった所で、足を置いていた尖った部分が崩れて勇者が体勢を崩しかける。


「うぉっとぉ?」

「勇者ちゃん!?」

「ちょっと!! 気を付けてって言ったじゃない!!」


勇者に巻いていた命綱を引っ張り、何とか勇者が落下するのを防ぐ魔族娘。


「あっはっはっ、めんごめんご! せーの…そりゃ!」


宙ぶらりん状態だった勇者はそのまま崖を蹴りつけて、

反動で樹木にまで一気に辿り着く。


「よ~し、1個目ゲットだ―!」


樹木に生えている溶岩のように紅い林檎を捥ぎ取って勇者はそれを高々と掲げる。

その様子にほっとして胸を撫で下ろす魔法使いと、隣で息を切らしている魔族娘。


「よっしゃ、次行ってみよー!」


試練のひとつ目を達成した勇者達が次に向かったのは魔界の荒野。

此処に生息している巨大な暴れ牛の討伐である。


「うっわぁ~、でけぇ~」


蕃神を見た後だと小さく感じるが、勇者達の眼前には身の丈5mはあろうかという暴れ牛が自分の領域に勝手に入ってきた勇者達に鼻息を荒くしている。


「勇者、先に言っとくけど暗黒剣はなしだからね?

 こいつの肉を持って帰るのが条件なんだから」

「分かってるって、妹ちゃんは支援お願いね」

「分かりましたの!」


魔法使いが各種の支援魔法を勇者と魔族娘にかけ、それと同時に二人が左右から挟み込むように暴れ牛へと迫る。

暴れ牛は左右から迫る外敵に一瞬、身を固まらせるが無手の魔族娘の方が対処しやすいと考えたのかそちらへと角を向けて頭を振る。


「おっと、やっぱこっち来たか! でもね!」


魔族娘は自分を貫かんと迫りくる角の脅威に対して、怯まずにむしろその頭へと向かって跳びはね、その角を掴んで支点としてぐるりと1回転すると自身のつま先を勢いよく暴れ牛の眼球へと向かって蹴り込む。

片眼を潰されて、視界を失った暴れ牛が嘶き、後ろ足で立ち上がるとその隙を逃さずに勇者がその首を一閃。


「うわっ!?」


ずるりと落下する頭部につられて、その角に掴まっていた魔族娘も自然落下する。

地響きを立てて荒野に倒れる暴れ牛の胴体と、その切断された首から吹き出す返り血を浴びる事になる魔族娘。


「……」

「お、おぉう…ごめんね?」


返り血でぐっしょりと汚れて全身鉄さび臭くなっている魔族娘に流石に勇者も罪悪感を覚えて傍に近寄る。


「あ~ん~た~は~!!」

「あ、痛い痛いそんで臭い臭い!!」


魔族娘に両方のこめかみをぐりぐりとやられて悲鳴を上げる勇者。

結局、魔法使いがその後に水魔法と浄化魔法で二人纏めて綺麗にする事で一応は魔族娘も落ち着いたのだった。


「いててて…何はともあれ二つ目もゲット―! 次だ―!」


そうして、いくつもの試練を越えてその成果を得て竜王の所へと戻ってきた勇者達。


「ウム、戻ってきたようだな勇者よ」


竜王から手助け厳禁と釘を刺されていた為、竜王運送の事務室で勇者達の帰りを待っていた暗黒騎士と女神が3人を出迎える。


「うん、何とか無事に全部集めて来たよおじさま!

 これで、竜王のおじさんも話聞いてくれるんだよね?」

「ウム、その筈であるが…これは」


暗黒騎士は勇者達が集めてきた試練の成果を眺めて顔を顰める。


「ねぇ、魔族。 これってどう考えても…」

「あ、あぁ…どう考えてもだな…」


女神もそれが導く可能性に気づいて暗黒騎士に尋ね、

暗黒騎士も考えを同じくしているようだ。


「お、全部揃ったようだな? じゃあ、それ持ってこっちに来な!」


其処に勇者が戻ってきたのを聞いて竜王が事務室へと入ってくると勇者達を促して、次の場所へと案内する。


其処にはニコニコ顔の竜王の妻が待っていた。


「あらあら、うちの旦那がごめんなさいね? 疲れたでしょ?

 お風呂沸かしてあるから、先に入ってきて。 その間に準備しておくわね」


竜王の妻は勇者達から成果を受け取ると、事務室の奥の住居スペースへと勇者達を連れて行った。

勇者達が事務所の奥へと消えたのを確認すると、竜王が暗黒騎士へと振り返る。


「おぅ、じゃあお前はちょっと聖都まで頼んでたを受け取って来てくる。

 この店に俺の名前出せば通じるからよ、場所はそのメモ参考にしてくれ」

「あ、あぁ、構わぬが…お主これどう考えても…いや、分かった。 行ってくる」


渡されたメモと店名を確認して暗黒騎士は疑惑が確信へと至ったようだが、それ以上は何も言わずに黙って聖都へと転移していった。


そして、


「チビちゃん、3歳の誕生日おめでとうー!」

「キャッキャ!」


竜王運送の社員一同と竜王の家族に見守られながら竜王の子供が誕生日のお祝いをされている。


「さぁさぁ、今日は皆さんも日頃の疲れを労って楽しんで行ってくださいね。

 これ、よ」


寸胴鍋を抱えて出てきた竜王の妻が、社員達に手ずからカレーを盛っていく。


「…って、私らに取りに行かせてたのそれかい!? 試練ってなんだよ!」

「うまうま」


拍子抜けして叫ぶ魔族娘と、一方、普通にカレーを楽しんでいる勇者。


「まぁまぁ…これで竜王様も協力してくださりますし…」


そんな魔族娘を宥める魔法使い、自分も普通にカレーは食べている。

なお、暗黒騎士は聖都のお菓子屋にバースデーケーキを受け取りに行かされていた。


「まぁ、騙すような真似しちまったが、お前らに課したお使いの中身は下手な連中なら普通におっ死んでもおかしくねぇような内容だったんだ。

 それをやり遂げたってんなら、俺ももう四の五の言えねぇわな」


勇者達の許に来た竜王が詫びつつも、勇者達の努力を認める。


「じゃあ、手を貸してくれるの?」

「あぁ、ただし1回きりだぞ?」

「それでも十分!」


こうして、竜王に認められた勇者一行は協力を取り付ける事に成功したのだった。


勇者歴16年(秋):勇者一行、竜王に認められる。

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