第137話 古代一のスーパースター

「ウシッ! まぁ、ダラダラすんのもこの辺でいいだろ。

 で、俺は何処に行けばいいんだ?」


家族サービスを終えた竜王が軽く体を解している。


「ほ~、あんさんが今回の動力担当者かいな。

 ほんほん、成程。 エライ強い火の力やな? あんさんドラゴンかいな?」


竜王の周囲を飛び回ってミニ蕃神が品定めするかのようにジロジロと嘗め回すように竜王の身体を見つめる。


「おぅ、今代の竜王とは俺の事よ!」

「ほ~、成程なぁ。 ほならまた竜王の力借りる事なるんやなぁ」

「何だと!? まさか、俺の曽祖父さんか!?」

「そこまでは知らんて」


ミニ蕃神の言葉に竜王が驚きの声を上げ、暗黒騎士が竜王に尋ねる。


「お主の曽祖父に何かあるのか?」

「ん? あぁ、俺の一族の中で唯一死因が不明なのが曽祖父だったんでな。

 爺さんは名誉の戦士と言っていたが、まさかこんな所で縁があるとはな」

「あ~、分かったわ! クソ邪神との決戦で無理を押して力貸してくれたのが、

 あんたの曽祖父って事やな。 誇ってえぇで、強い人やったわ」

「そうか…巨神も蕃神も秘匿しなきゃいけねぇ話だったから、

 曽祖父さんの最期も伏せられていたのか」


竜王の称号は世襲制であり、その代の最も武勇に優れた者が引き継いできた誇りある名である。

その中で、一人だけ死因不明というのは色々と憶測を呼び、

血縁からは要らぬ誹りも受けてきた。

実際、今の竜王が名を引き継いだ時も曽祖父の名は禁忌とされていた。

それについては詳細を知る祖父も「約定の為に話せないが誇りある死だった」としか話してはくれなかったのだった。

それがこんな所で繋がるとは奇妙な縁もあったものである。


「少しばかりやる気も変わってくるってもんだ。

 どれ、さっさとその動力部って所に案内してくれや」

「ほな、早速案内したろか」


竜王の促しに応じて、ミニ蕃神が本体の前に移動する。

ミニ蕃神が本体に手を翳すと、本体のその両の眼光が一瞬だけ光り輝き、口腔部から光の道が照射される。


「そこから入るのかよ…何か食われるみたいで嫌だな…

 出口は尻じゃねぇだろうな?」

「アホな事言うとらんではよ入りや! あ、勇者ちゃん達もついて来てくれな」


厭そうな顔をしつつも竜王が光の道に入ると内部へと転送されていく。

それに続いて勇者達も光の道へと入っていく。


「…うぉ、中は意外と広いな!?」


目を開ければ、白い空間の中に勇者一行が立ち尽くしている。


「フフフ、私の神域制御の術式を組み込んでいますからね。

 外と中では実際の広さに違いがありますよ?」


竜王の感想に女神が鼻高々といった様子で自慢そうにしている。


「役に立つ時とそうでない時の差があり過ぎるのよな、こ奴」

「基本、能力的には有能な筈なのにね。 主に性格がね」

「魔族達が何か言ってても聞こえませ~ん!」


女神は暗黒騎士と魔族娘の呟きは聞き流してミニ蕃神に振りかえる。


「魔族達がこれ以上ごちゃごちゃ言う前に動力部を解放しなさい」

「ハイハイ、オカンの言う通りにしますわ」


女神の言葉に従い、ミニ蕃神が何やら呟くと勇者一行の目の前に突如、空間を切り取ったように光る扉が出現する。


「動力部はその先や、入ってくれや」


竜王が覚悟を決めた目で中へと踏み込み、勇者達も互いに頷きあうとそれに続く。

そうして、踏み込んだ先は、まるで心臓のような見た目の金属の塊。

そして、それの前にある


「……おい、まさか動力って」

「……まぁ、その何だ竜王よ。 お主はアレだ…力自慢だし…」

「おい、目を逸らしてんじゃねぇよ!! どう見たってこれあれだろ!

 何かよくお伽噺で奴隷が回させられてるやつだろ!」


そう、心臓のような見た目の物体の前にある仕掛け。

それは何か物語とかで奴隷が回させられてるよく分からない横回転する棒である。


「何でここだけ人力なんだよ!! さっきまでの無駄な超技術はどこいった!?」

「いや、これも効率よく火の魔力を対象から絞りだす機構なんやで?」

「絞り出すって言ったよな、今!?」

「力いっぱい回すんやで」


釈然とせずに抗議する竜王に対して、にっこりと微笑むミニ蕃神。


「クソッ!! 想像してたのと違うがやるよ、やりゃあいいんだろうが!」

「お前の曾祖父も回したんやで」

「分かってたけど、今一番聞きたくなかったわ、それ!」


もしや曾祖父の死因はただの過労だったのではないかとちょっと思ってしまう竜王。

竜王が棒に触れると空間内に声が響く。


『ピンポ~ン、今回の労働者が登録されました!

 今回も労災0を目指してがんばりましょう! ご安全に!』


明らかに聞いた事のある音声に勇者一行が女神に視線を送り、女神は顔を背ける。


「よし、全部終わったらそのボケ女神はあとで〆る。 覚えてろよ、お前!」

「いやぁ、世の中似たような声の人が3人はいるって言いますし」

「声じゃなくて、顔だな。 あと年代と作成者考えたらお主しかいないからな?」


暗黒騎士の指摘に小さく舌打ちする女神。


「そ、それよりも先ずは起動が先です! さぁ、キビキビ回しなさい!」

「だぁぁぁっ! クソが、やってやろうじゃねぇか!!」


竜王が力を込めて棒に体重を掛けていく。

鈍い音を響かせながら、竜王が一歩一歩を踏みしめながら棒を回し始める。


「ぬぅうりゃぁぁぁぁ!!」


やがて、竜王が普通に歩く速さと同じ位の速度で棒を回転させ始めると、それに呼応するように心臓のような物体に赤い輝きが灯っていく。


「おっと、そろそろ勇者ちゃんらは出ないと危ないで?

 動力部が完全に起動したら、中は火の魔力で満ちる事になるでな」

「そっか、じゃあ竜王のおじさん頑張ってね?

 差し入れは定期的に持ってくるよ!」


ミニ蕃神に促されて勇者達は雄叫びを上げながら棒を回している竜王を残して動力部を後にする。

そして、最初の空間に戻った勇者達の前にミニ蕃神が飛んでくる。


「おぉ、力が満ちてきおった! 遂に目覚めるで、ワイのハンサムな本体が!」


そのミニ蕃神の言葉に応える様に外の獅子型蕃神の両目が力強く輝くのだった。


勇者歴16年(秋):勇者一行、蕃神を起動させる事に成功する。

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