第128話 伝説の祠

久しぶりにマトモに仕事した女神の発案による『蕃神』探索行。

剣士は武道祭の後遺症も有り、今回は参加せずに剣士を抜いた女性陣と付き添いの暗黒騎士に女神で行う事になった。


「『蕃神』の隠し場所自体は私が記憶してるので問題ないのですが、

 問題なのは其処は機密保持の為に罠が大量に仕掛けて有るんですよ」


女神がこれから向かう場所についての説明を始めるが、

暗黒騎士がその説明に割って入る。


「其処自体、お主が用意した場所だろう?

 お主の力で何とかならんのか?」


暗黒騎士が抱いて当然の疑問を女神に対してぶつけるが、

女神はその疑問に首を横に振る。


「当時の人族や魔族との協定で私といえど容易に踏み込めないようになっているのですよ。

 魔族側が自分達が『蕃神』に襲われるのを防ぐ為に」

「成程、無難と言えば無難か」


暗黒騎士の眼にはありありと「まぁ、コイツ相手だしな」という意思が込められている。


「何ですか、その眼は。 やる気か? やる気ですか!?」

「女神様、落ち着いて下さいまし! それよりも話の続きを」


暗黒騎士に食ってかかろうとする女神を魔法使いが背中を摩りつつ宥める。


「ふぅ…本当に今回の勇者達はイレギュラー要素が多すぎて、魔法使いちゃんだけが癒しですよ…信仰乗っ取られかけてますけどネェ!!」

「冤罪ですわ!? それは聖女様に仰って下さいまし!?」


魔法使いを一通り威嚇して満足したのか、機嫌を直した女神が話を戻す。


「ところで、この中に罠感知や罠解除の技術を備えてる人居ます?」


女神の質問に暗黒騎士と勇者達は目を見合わせる。

そして、気づいた。


このパーティー、かなり脳筋でそういう技術持ちが居ないという事に。


「魔女なら或いはと思ったが、あやつは剣士の見舞いで今回は参加しないし、デスウィッチは先日帰ったな…」

「技術屋ゼロじゃないですか、ヤダー!」


女神も今の面子のアレっぷりに気づいて悲鳴を上げる。


そんな中、挙手する者が一名。


「私、鍵開けとかなら練習したよ?」


勇者である。


「フム、器用なのは重々承知しているが、何でまた鍵開けなぞ?」

「エッ? おじさまとお母さんが良い感じになった時に逃さないように施錠する技術を磨く過程で」

「ヨシ! 我、何も聞いてない!」


耳を塞いで現実から目を背ける暗黒騎士は放置しつつ、

女神も勇者の器用さに攻略への微かな光明を見いだすものの、まだ不安が残る。


「と言っても流石に素人だけなのは不安ですね…」

「じゃあ、師匠も連れてこようか?」

「エッ、師匠とか居たんですか!?」


勇者の意外な一言に女神だけでなく、暗黒騎士達も驚きを隠せない。

そもそも、そんな相手といつ知り合っていたのか?


「じゃあ、呼んでくるからちょっと待ってて。

 今日はお店も休みの筈だし」

「……店?」


女神から転移石を一時的に返して貰うと勇者は一人で何処かへと飛んでいく。

それから暫くして、


「連れて来たよ、鍵開けの師匠!」

「よばれてきたのであります!」


転移して来た勇者の隣で精一杯の敬礼をするファンシー小隊のコボルトコーギー。


「こいつですか!? それ、本気で言ってますか勇者よ!?」

「事実なんだよなぁ」


信じられずにコボルトコーギーを指差しまくる女神に不貞腐れる勇者。


「いや、あながち勇者のホラでもないな…」

「貴方まで正気ですか!?」

「いや、だって此奴らそもそも斥候だし」

「…アッ」


可愛いさ重視で産まれた改造体ではあるものの、そういえば主任務は伝令などの斥候が中心なのである。

その過程で彼らはそれなりにそれらの技術はそれなりに高い。

最初の砦への侵入も自力でやってのけているのである。

見た目で騙されてはいけない。

まぁ、弱いのと愚直なので宝の持ち腐れ気味なのだが。


「じゃあ試しに、この前、飲んで悪ノリして鍵無くしちゃった夫人の小物入れを」

「あけました!」

「はっや」


女神が差し出した鍵付きの小物入れをコボルトコーギーは数秒様々な角度で覗いた後、

小さな手にピッキングツールを持って一瞬で開けてしまった。


「フム、腕は確かだな。 後、女神は後で説教な?」


暗黒騎士もその予想外の腕前に思わず感心してしまう。


「だから言ったのに、という訳で今回は師匠も臨時メンバー入りです!」

「はなしがわかりませんが、がんばります!」


勇者のごり押しと実際に斥候は必要なので女神も渋々と言った様子で頷き、勇者から転移石を渡される。


「背に腹は変えられませんね、魔族が増えるのはあまり好ましくありませんが…」

「今更過ぎる」

「まぁ、いいでしょう。 では行きますよ、『女神の祠』に!」


女神が転移石を掲げ、勇者達と一緒に転移していく。


「さて、約500年ぶりに来ましたが、当時の私の信徒達が技術の髄を尽くして建設した祠です。

 どうですか、神秘的でしょう?」

「いや、あの…」


女神が自慢げに鼻を鳴らしているが、他の面子の反応は薄い。

女神がどうした事かと目を開けると、


「く、崩れてるー!?」


女神が言う『祠』は見る影もない程に完全に倒壊しており、周りは樹々に囲まれ、辛うじて入口が残っているだけの有様だった。



勇者歴16年(秋):勇者一行、『女神の祠』だった場所に辿り着く。

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