第127話 蕃神、吠える!!

聖女から借り受けた魔導具から映し出された巨大な存在を見て、女神は大きく溜め息を吐いた。


「間違いありませんね…これは邪神戦争の折に当時の魔族と人族のありとあらゆる分野の専門家が結集して創造した巨神です。

 本来は邪神のような異界からの侵略に対抗する為に創られた物だというのに、愚かな事を」

「物という事はやはり兵器であっているのか?」

「えぇ、稼働には操縦者と圧倒的な火属性の魔力が必要ですが」


暗黒騎士の質問に女神は頷く。


「火属性以外は駄目なの?」

「ハイ、火属性が一番巨神を動かす動力源に適していたのです。

 他の属性では満足に動きませんでした」


勇者が首を傾げるも、その辺りの詳しい事情を説明する女神。


「随分と詳しいじゃない、やっぱり封印したのが貴女だから?」

「そりゃ詳しくて当たり前ですよ、私も当時手伝いましたし」


話を聞いていた魔族娘がぽろっと漏らした感想に、女神はあっさりと真相を話す。


「前に話したじゃないですか、邪神戦争の時に色々対策を用意したって。

 これもその一つですよ?」

「思いっきり、今は人族に牙を剥いているがな」

「道具は悪くな~い、使う側の資質の問題です~!!」


最近の扱いの悪さからか『私は無実』と書かれた紙を掲げる女神、字が汚い。


「まぁ、それもあながち間違いではないから何とも言えんが、

 アレはどうにかならんのか?」

「それは具体的に言えば、あれを倒す手段とかですか?」

「うむ」


暗黒騎士の質問に女神が聞き返し、しばらく考え込むも首を横に振る。


「まずまともにやっても勇者や魔族が協力した所で掠り傷が関の山でしょうね。

 そもそもあれは戦闘を想定してる相手が違いますし」

「正攻法では厳しいか…かといって、あのような存在を放置しておく訳にもいかないが」

「まぁ、それに関しては大丈夫じゃないですかね。

 あの一撃を放つだけでとんでもない量の火の魔力を消費した筈ですし。

 動力だった人は過労死寸前まで行ったと思いますよ?」

「別に替えの魔術師を用意すればよいのではないのか?」


暗黒騎士の疑問に女神は首を横に振る。


「安全策として登録出来るのは一人だけになってるのです。

 仮に登録者が魔力枯渇で死亡した場合でも、

 再登録には時間がかかる様になってます」

「それは有り難い話だが、今の状況ではただの無意味な延命にしか思えんな。

 その間に魔王軍に忍び込んで巨神を奪うか?」


他に解決策も思い浮かばず、現状では愚策と言えるこれが良策にすら思えてしまう。

これは追い詰められている時の思考だな、と暗黒騎士は自嘲する。


「対抗手段はあると言えばあるのですが…」


女神は言い辛そうに腕を組み、頭を悩ませる。


「条件が厳しいというか、適合者がいるのかどうか…」

「…?」


そんな風な言葉を女神がブツブツと呟いているのを巨神対策で同じく頭を悩ませていた暗黒騎士でも首を傾げる。

その時、不意に勇者が立ち上がり、明後日の方向に視線を向けている。


「な、なんだ、どうしたのだ勇者よ?」

「呼んでる…?」


勇者がポツリと呟く。

その様子に暗黒騎士はまた変な電波受信しちゃったのかと慌てるものの、女神は別なようで瞠目した後に一気に勇者へ詰め寄る。


「それ、何が聞こえてます!? 咆哮的なものですか!?」

「え、うん。 何か獅子の咆哮みたいなの」


女神の質問に素直に首肯する勇者に女神も何かを納得したようでうんうんと頷いている。


「私自身ずっと昔に造った仕掛け過ぎて大分記憶が曖昧でしたが、

 成程、これはいけるかもしれませんよ?」

「うん、大分聞きたくない言葉も混ざっていたが聞こうか?

 これ、勇者が変になってるのはお前の所為なのだな?」

「勇者が変なのはいつもの…あ、二人して拳を鳴らすのは止めてください…

 あっ、そうですそうです! 朗報ですよ!」


余計な一言の所為で暗黒騎士と勇者に壁際まで追い詰められた女神が乾いた笑みを浮かべつつ、必死に訴える。


「巨神、何とか出来るかもしれません!」

「ほう? だが、さっきは対抗手段はないと…」

「えぇ、適合者探しを前提とするなら実質手段はなかったのですが、

 どうやら勇者が選ばれたようなのでその問題は解決しました」

「さっきから選ばれた選ばれたと何の話だ?

 そういうの、路上の怪しい宗教勧誘だけで十分だぞ?」

「一応、私は人族の最高信仰対象なんですけど!?」


呆れたような態度の暗黒騎士にぷんすか肩を怒らせていた女神が話が反れたのを思い出して、咳払いをした後に勇者を指さす。


「勇者よ、貴女は『蕃神』に選ばれました!

 邪神戦争の際に創られたもう一つの鋼の神、

 そして巨神が悪用された際のカウンター!

 それが『蕃神』です!」

「へー」

「反応うっす!?」


女神の言葉にはあまり反応は示さずに勇者はずっと同じ一点を見続けている。

視線の先自体は壁だが、見据えているのはそのずっと向こう側だ。


「まぁいいでしょう、そうなると矢張りあそこに行かないといけないですね…

 正直、気乗りはしませんが、巨神を魔王が悪用した以上そうは言ってられませんし」


女神が暗黒騎士に手を差し出す。


「転移石を貸してください、それと腕の立つ者を選んでくださいね。

 ハッキリ言って危険な場所ですので、『蕃神』の隠し場所は」


こうして、巨神に対抗する為の勇者一行の『蕃神』探索行が幕を開けた。


勇者歴16年(秋):勇者が『蕃神』に選ばれる。

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