第129話 過去よ神達のなぜ!?

完全に倒壊している元『祠』を前に呆然としている女神を一旦放置しつつ、

暗黒騎士達は周囲を観察する。


「この辺は、南国の熱帯雨林地帯か? 周辺の樹々に見覚えがある」

「うへ~、凄く蒸し暑い」


暗黒騎士はその辺に自生している樹木に手を当てて眺め、

勇者は舌を出しながら服の襟を掴んで顔をパタパタと扇いでいる。


「はしたないですわよ勇者ちゃん。暑いのは同感ですけれど」


魔法使いも普段は羽織っているケープマントを開いて空気を取り込んでいる。

なお、マントの下は実質下着みたいなものなので勇者よりは涼しそうである。


「この子と周辺探ってみたけど、他にも何もなさそうね此処。

 完全にただの密林になってるわ」


コボルトコーギーと周囲を見回ってきた魔族娘が汗を拭いつつ、

暗黒騎士達に報告する。


「まぁ、女神が此処に祠を建てさせてから500年も経っていれば十分にあり得る可能性よな」

「確か南国の方に嘗て女神様を信奉する国家があったと記録があった筈ですの、

 でも、その国は他の周辺国に攻め滅ぼされたそうですわ」

「え、そうなの!?」


魔法使いが昔読んだ文献の事を思い出しつつ、そんな話をする。

それに一番驚いていたのは女神だったりするのだが。


「お主…自分で大事なモノを預けた国の事を見ていなかったのか…」

「い、いやぁ…あまり俗世の事に私が口を挟むのも…ねぇ?」


暗黒騎士のジト目にしどろもどろになりながら目を泳がせて弁明する女神。

「こいつ、ただ忘れてただけだろ」という感想は飲み込む。


「まぁ、他に何もなさそうならこの遺跡に入ってみるしかないんじゃない?

 中まで崩れてないといいけど」


勇者の提案に他の手もないので暗黒騎士達も頷くが、不意に暗黒騎士と勇者が同時に背後を振り返る。

視線の先で鬱蒼と茂る草を掻き分けて誰かがこちらへと近づいてきていたのだ。

暗黒騎士と勇者は目線だけで頷きあい、何者かが射程に入った瞬間に二人で同時に何者かに武器を突き付ける。


「ふぅふぅ…こ、この辺の筈…えっ…はいぃぃぃ!?」


その軽装で帽子を被った眼鏡の女性は左右から自分に武器を向けられている事に気づいて、その場に腰を抜かす。


「ひぇ、と、盗賊? もしくは同業者!? お金ケチって冒険者雇わなかった事が裏目に出た!? わ、私、金目のものは持ってませんよ!?」


その場で即座に見事な土下座をかます女性に暗黒騎士と勇者は武器を収める。


「いや、すまない。

 我らは野盗の類ではないし、お主の同業というのにも覚えはない。

 気配に気づいて念の為に動いた事でお主を無暗に驚かせてしまったな」

「誰だか分からないけどごめんね? 頭上げてくれる?」

「はぇ、や、野盗じゃないんですか? ハァァァァビックリしたぁぁぁ」


頭を上げて周囲を確認し、暗黒騎士達が武器を収めているのに気づいて女性は安堵して姿勢を崩して座り込む。


「というか、貴方達は誰ですか? 野盗でもでもないなら何でこんな地に?」

「いや、そもそもそのというのが何の事か分からぬのだが?」

「はい? じゃあ、貴方達はお宝目当ての冒険者ですか?

 でなければ、こんな元邪神信仰の滅びた国の史跡なんて来ないでしょう?」

「誰が邪神だこら!?」

「え、何でこの人急にキレだしてるんですか…こわっ!?」


どうにも話が通じなくて暗黒騎士達と女性はお互いに困惑している。


「すまぬ、我々は…まぁ、冒険者ではあるな…一応登録はしてるし。

 まぁそのような者だ。 ただ、その邪神信仰とやらとは無関係だ」


最近潰したけど、とは言わない。


「じゃあ、お宝目当てに態々こんな辺鄙な場所まで来たんですか?

 はぁ~、冒険者っていうのも世知辛いんですねぇ。

 まぁ、私も人の事は言えないんですけど、あ、私は学者やってます。

 専門は考古学です」

「学者様ですの!?」


話を聞いていた魔法使いが学者と聞いて目を輝かせている。

一方の学者の方は急に見た目痴女の少女に詰め寄られてドン引きしているが。


「え、私、所詮ただの若手なのでお金とか持ってないですよ…

 そっちの気もないですし!!」

「あ、可哀想なのは見た目だけで中身はいい子なので純粋な知識欲です」


あらぬ誤解を抱いている学者の誤解は一応解いておく暗黒騎士。

格好については何もフォロー出来ないのでそこはなんとも出来ないが。


「ハァ? まぁ何でもいいですが…しかし、同業じゃないならば最近発見された『女神の洞窟』の調査に協力をして頂けませんか?」

「祠だこの野郎!!」

「えぇ、さっきからこの女性は何なんです…情緒がヤバい方ですか…?

 確かに、文献だとこの辺に嘗ては女神に関わる遺跡があったらしいですけど…」


自分の関連施設(倒壊済み)を洞窟呼ばわりされてキレる女神を取り押さえつつ、暗黒騎士は学者に向き直る。


「お主は随分とこの辺りの事情に詳しそうだな。

 出来れば詳しく話してはくれぬか」

「私、学会じゃ嫌われてますけど、いいんです?」

「問題ない、頼む」


暗黒騎士が女神を押さえつつ頭を下げると、それまではこのやたらと平均年齢が低そうな見た目の不審な集団に対する不信感で警戒していた学者も気をよくしたのか気前よく話し出した。


「まずですね、この辺りは昔から女神から邪神崇拝に乗り換えた為に周辺国に攻め滅ぼされた国があるというのが今までの考古学会の知見だったのですが、私はその説自体が誤りだと思っているのです」

「それは何故ですの?」

「まず、この辺で掘り出される遺物の類に邪神崇拝に関わる物は一切出土していないのです。逆に女神や『獣のような形をした謎の意匠の像』等は数多く発掘されていますが」


まるで授業を受ける生徒のような姿勢で学者の話に耳を傾ける魔法使いと、学者の話を聞いて落ち着きを取り戻し始めた女神も黙って話を聞いている。


「なので私はこの国は周辺国にとってがあったので共謀して攻め滅ぼしたのではないかと思っています。 ただ、この説を学会で訴えた所、近隣諸国の王族なんかが激怒しちゃいまして…今、絶賛干され中です…トホホ」

「それは…まぁ、無難だろうなぁ」


そこまで話して肩を落とす学者と、そんな話をしたらそりゃ相手の心証は良くはないだろうなと可哀想ではあるが無難な結果だと判断する暗黒騎士。


「それで、最近この辺で発見された遺跡を調査すれば私の説を補強する何かが見つかると思って遥々ここまで出向いて来たのです。

 でも、道中までで路銀も尽きて冒険者すら雇えずの単独行ですけどね」


学者が自嘲気味の乾いた笑いを浮かべている一方、

女神はわなわなと全身を震わせている。

こういう時の女神は大概碌でもない思い付きをするのを身をもって経験している暗黒騎士は嫌な予感を覚えるも、口を挟む前に女神が先に動いた。


「素ッ晴らしい!! 私の冤罪を晴らそうとするその姿勢!!

 実に見事です、貴女こそ信者の鑑です!」

「えっ、冤罪? 信者? えっと、この人、何か薬でもやってます?」

「その反応は全くもって正しいが、信じられないだろうけれどこれ女神本人です」

「えぇ…ここにきて怪しい新興宗教の勧誘…?」


全然信じる気のない学者に対して女神は業を煮やしたのか、普段は節約している信仰パワーで実際に奇跡を起こしてみせる。


「そこまで疑うのならば仕方ないですね…ムムム…ハイ、見えました。

 貴女の出身地はここから離れた地にある片田舎で当時好きだった子に『俺、頭悪いから頭いい奴って凄いと思うわ』と言われたのが勉学の始まり。でも、それを言っていた当人は滅茶苦茶遊んでそうな女性と付き合いだしていてそもそも自分が女性として見られてなかった事に後から気づき、半ば自棄で田舎を飛び出して上京し、学園に滑り込み入学、嫉妬パワーを原点にそこでメキメキと頭角を…」

「ワーワーワー!! 信じます、信じますからやめて―!?」


急に自分の黒歴史を掘り起こされて必死に女神を止める学者を眺めながら、「女神パワーってえげつねぇな…」と思う暗黒騎士達であった。


勇者歴16年(秋):勇者一行、遺跡の前で学者と出会う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る