第123話 皇帝特権!!

「さて、各々落ち着いたな?」

「はい」

「うん」

「すみません…」

「あの、私は巻き込まれただけなのですが?」


仁王立ちする暗黒騎士の前には正座させられている魔女、マジカル★デスウィッチ、ハーピィ、女神の四人の姿。

女神だけは無実アピールをしているが、暗黒騎士はそれを無視して話を続ける。


「正直、デスウィッチの事に関してはこちらに全面的に否があるのであまり強く言う事はせぬが、お主がやろうとしたのはあまりにも過剰だったのは理解しておるな?」

「ハイ…つい昔のノリで全部ぶっ壊してやるとか言ってました…」

「それをお主の信奉者の前で見せられるか?」

「ハッ!? そ、そうだった…今の私は見目麗しい歌姫…粗暴な死霊王じゃないんだった…」

「じ、自分でそこまで言うのだな…別にいいが…」


ハッとした表情で内省するマジカル★デスウィッチに「こいつ自己評価随分高いな」とちょっと引いているものの、取り敢えずは反省したのだなと納得する暗黒騎士。


「お主らはあれだぞ…その、非常に言い辛いが…正直ちょっと醜かった」

「うぐっ!?」

「うぅ…こうはならないと誓っていたのに…」


暗黒騎士の正直な感想に胸を押さえる魔女とこれ以上ない程に落ち込むハーピィ。


「あれがキャットファイトって奴?」

「こら、事実でも口に出すのは止めなさい! …つまりはそういう事だぞお主ら?」


勇者の素直過ぎる感想を流石に止めつつ、彼女らの喧嘩がどんなレベルのものだったかを端的に示す暗黒騎士。


「「反省してます…」」


あまりにも低レベル過ぎた喧嘩の内容に凹み続ける新旧風の四天王。


「しかし…他の者も避難してしまったし、この騒動をどう決着つけたものか…」


魔女とハーピィの喧嘩の余波に巻き込まれないように避難させた結果、この場には暗黒騎士達の他にハーピィの身を案じた双子の祭司位しか残ってはいない。


「お主も何故此処にいるのかを簡単に説明して貰えぬか?」


そもそも新魔王軍の四天王がこんな所で祭られていた経緯を知らない暗黒騎士達がハーピィに尋ねる。


「話すと長くなりますが…」


そこで正座したままハーピィが暗黒騎士達に今までの経緯を説明するのだった。


「……要は職場の環境が劣悪過ぎて精神が磨り減ったから強引に休暇を取らされ、余暇でデスウィッチの巡業を追っていたら、帰り道でしくじって拉致られたと…

 そんなのあり得るのか?」

「それがあったからこうして此処にいるのです」

「えぇ…」


正直、信じられない内容過ぎて耳を疑うが事実らしいので尋ねた方の暗黒騎士の方が困惑している。


「あ、じゃあサイン要る?」

「え、良いんですか!! 是非!! ここにハーピィちゃんへ、でお願いします!」

「あ、これ本当ガチだな?」


ハーピィが自分の信奉者ファンだと聞いたマジカル★デスウィッチがサービスでサインを提案するとかなり食い気味で話に乗ってきている。

その食いつきぶりは嘘とは到底思えない。


「しかし、どうする…? 見逃すか?」


暗黒騎士が勇者達に確認する。


「う~ん、別に私は何もされてないので見逃すに1票」

「俺も別にどっちでもいいので同じく」

「いや、こいつ見逃すのは正直どうなのよ?

 魔王軍に有利なだけじゃん、私は反対」


勇者と剣士は見逃す、魔族娘が見逃さないと意見が分かれる。


「魔族娘が言う事も一理あるのよな…正直な所はお主は如何なのだ?」

「それを私に尋ねるのもどうかと思うのですが…私は…」


振り返って意見を求めてきた暗黒騎士にハーピィは苦笑しつつ、答えを返そうと思うも喉が閊えて言葉が出ない。

最初は何とかして帰還しようと思っていたものの、最近はこの生活も結構楽しんでいたのだ。

それを頭では否定しようとしたものの、心がそれを口に出すのを拒否している。


「私は…」


多分、ここで帰りたいと言えば暗黒騎士達は見逃してくれるかもしれない。

結局の所、彼らは蛮族達が第三勢力として暴れないようにできればそれでいいのだ。

ならば、自分も本来の職務の責任を優先すべきである。


「……」


また、あの仕事に忙殺される日々に戻る?

好きでもない事務処理や、碌でもない連中を取りまとめて自分のストレスを溜めるだけの日々に?

そして言葉の出ないハーピィの前に進み出る二つの影。


「「恐れ多くも宜しいでしょうか、巫女様!」」」


双子の祭司がハーピィの前に屈みこみ、頭を下げる。


「え、どうしたの二人とも…」

「「どうかこのまま我らを導いては頂けぬでしょうか!」」

「そ、それは…」


悩むハーピィにはその言葉はとても魅力的に響いてくる。

しかし、責任感がそれに素直に頷かせる事が出来ないでいた。


「あーもー、めんどくっさ!」


そこに大声で割って入ったのは魔女である。


「おい、そこの双子。 お前ら実はこの鳥ガラに惚れてるだけだろ?」

「鳥ガ…そ、そのような滅相な…我らは所詮敗退した身…

 巫女様に釣り合いの取れるような戦士では…」


双子の祭司は魔女の指摘に顔を赤らめて下を向く。

その様子に恋愛事に不慣れなハーピィも赤面して口をパクパクさせている。


「そういう因習アピールとかどうでもいいから、私には関係ないし。

 というか、私が新たな皇帝って事になったんでしょ? そうよね?」

「は、ハァ…その通りですが…」

「よし、なら皇帝命令。 お前ら、この鳥ガラを娶れ」

「「ハ、ハイ!?」」


踏ん反り返ってトンデモナイ事を口にする魔女。

勇者は腹を抱えて笑い、暗黒騎士は額を押さえ、剣士は唖然とし、

魔族娘は呆れている。


「ちょちょちょ!? 何言ってるんですか貴女!?」

「どーせ、責任感がーとかウジウジ悩んでんでしょあんた?

 だったら、ここでキッパリ捨ててけばいいじゃない?」

「あ、貴女という人はどこまで無責任な…!」


肩を怒らせて抗議に出ようとするハーピィの両肩を魔女はがっしりと掴む。


「な、何ですか!?」

「『吸精触手ドレイン・タッチ』」

「あふん…」


魔女の両手が妖しく輝くとハーピィが腰砕けになってその場に崩れ落ちる。


「あ、今こいつの精気吸いとったから、早めに精気注いでやらないと死ぬわよ?」

「「な、なんですと!?」」


突然の魔女の暴挙に双子の司祭は泡を食う。


「方法は言わなくても分かるわね? いい、これは人命救助なのよ?

 やらないなら放置して私達は帰るけど、それでもいいならどうぞ?

 どーせ誰も見てないって、何なら結界貼っとこうか…?」

「あ、悪魔だ…悪魔がおるぞ…」


魔女の悪魔の囁きに戦慄する暗黒騎士。


「成程、こういう手もあるのか…」


その後ろでぼそっと呟いて静かにうんうんと頷いている勇者。


「くっ…致し方ない、御免! 巫女様!」

「あっ、ずるい…ではなくて私も細やかながら手伝いますぞ兄者!」

「あっ…待って…せめてお風呂に…イケメンが…イケメン2人が迫ってくる…」


「撤退!!」


覚悟を決めて上半身裸になった双子の祭司がハーピィににじり寄るのを最後までは見届けず、暗黒騎士の判断で勇者一行は強制転移されるのだった。


勇者歴16年(秋):魔女、皇帝特権でハーピィをアレさせる。

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