第122話 混沌、混沌、また混沌

お互いから発生した暴風がぶつかり合い、会場全体を激しい振動が襲う。

蛮族達が咄嗟に結界を展開して被害を最小限に抑えようと試みているも、相手は仮にも四天王と呼ばれたほどの実力者が2名。

油断や慢心がない純粋な実力ならば、この集落の蛮族達の個々よりは遥かに高い戦闘能力を持っているのだ。

その二人が感情を剥き出しに全力を注ぎこめば、封じている側にはとんでもない程の圧力が常にかけられており、結界自体が軋みを上げている。


「いかん、一部のものを除き、早めに避難させるのだ!

 止める事に拘り続ければ、被害が大きくなる可能性すらあるぞ!」


嵐の中、観覧席に居た蛮族や観客達への暗黒騎士の警告に、流石は百戦錬磨の猛者達も頷いて動けなくなっていた年寄り子供などを連れて会場を避難し始めている。

一方、会場崩壊の危機の元凶たる二人はと言えば、


「その貧相な身体を刻んで鶏がらスープにしてやるわよ!」

「ハッ! ならこっちはその無駄な脂肪分でバターを作って差し上げますわ!」


魔女が腕を振るって風の斬撃を飛ばせば、ハーピィが息を吸い込んで口から衝撃波を放って相殺させる。


「相ッ変わらずやかましい声ねぇ! 本当は早朝の鶏の化身なんじゃないの!」

「そうやって人の気にしてる事をッ!」

「あらごめんなさいね? 本当はセイレーンみたいな歌の上手い鳥族になりたかったんだっけ? よく宴会で泣きながら言ってたわね」

「く~~ッ!! そっちこそ、隠れてお花畑全開のポエム書いてるの知ってるんですからね! 『汚れた闇の中に居る私を連れ出してくれる王子さま』ですっけ?」

「ひぇ!? な、何故それを!?」

「バレたくないなら人が渡した会議資料の裏に書くな!」


お互いの黒歴史暴露会と化しながら戦う新旧風の四天王はお互いに心の傷を抉られて身悶えしながら相手の心の傷を更に抉る地獄のマラソン状態となっている。


「うわ~~~…関わりたくないのである」


避難誘導にそれまでは徹していた暗黒騎士が勇者達を伴って戻ってきたものの、

正直、上空でお互いに醜態を晒しあう女性陣に関わりたくないのが本音である。


「つっても、このままだと結界壊れたら外にまで飛び出しますよあの二人?」


剣士もまさか天空の御使いの正体が四天王だとは思わず、しかもそれが自分の恋人でもある魔女の知り合いだったと知り、どうしたものかと頭を掻いている。


「う~ん、兄弟子が責任取って二人共自分の嫁にするとか?」

「うん、確実に俺の身が消滅するから無しで」


勇者の提案を即却下する剣士、それはヘイトが自分剣士に向くだけです。


「暗黒騎士が責任取って二人共ぶちのめしたら? 元同僚と部下でしょ?」

「我、単純にあの系統の魔術師とは相性悪いのよな」


魔族娘の提案も暗黒騎士の反応は渋い。

純粋な物理アタッカーである暗黒騎士はあの二人のような高速飛行型の魔法使いは倒せない事も無いが相性が悪く時間がかかる。

仮に逃げに徹せられれば捉えられる気もしない。

その間に結界が壊れれば本末転倒である。

そんな現実に4人が頭を悩ませていると、暗黒騎士と勇者が急に空を見上げる。


「…何だ?」

「何か来るよ、おじさま?」


二人の言葉に剣士と魔族娘も空を見上げると、太陽の灯りの中に一点の影が差す。

それはみるみると膨れ上がると何かがこちらへと向かって落ちてきているのを察する。


「いかん、離れろ!!」


暗黒騎士の言葉に勇者達も慌てて舞台から離れる。


「ハァハァ…このデスボイス鳥め…ん?」

「フ-フ―…何よ無責任フラワー女…はい?」


戦い合っていた為に反応が遅れた新旧風の四天王の二人が頭上に指した影に気づいた時には遅く、二人纏めて空から降ってきた巨大なスカルドラゴンにプチっと踏みつぶされた。


「ま、魔女さーん!?」

「巫女様―!?」


慌てて名を呼びかける剣士と双子の祭司がお互いに顔を見合わせて、ドーモと軽く頭を下げ合う。


「って、そうじゃなくて、あのでっけぇ骨の怪物はって…あっ!」


二人を踏み潰したスカルドラゴンの頭部に小さな人影が立つ。


「お前らーーー!! よくも私を1か月近くも放置してたなーーー!!

 冤罪だって言い続けたのに人の事放置し続けやがってーーー!!」


1か月近く、山の麓に放置されていたマジカル★デスウィッチが怒り心頭といった様子で仁王立ちしている。


「やっべ忘れてた!!」


そもそもの事の発端だったマジカル★デスウィッチの事を縛って馬車に放置したままだった事をやっと思い出した暗黒騎士。


「…いや、でも待て、誰か見張りにつけてなかったか?」


そういえば、登山の前後で誰か足りない気がするが基本的には必要なかったので頭から抜けていた。


「ぐすんぐすん、酷いですよぅ…人が渡された非常食だけでひもじい思いしながらこの人と二人きりで待ってたのにこんな楽しそうなお祭りしてたなんて…」


「「「「あっ」」」」


マジカル★デスウィッチの背後でべそをかいている女神穀潰しの姿に誰が足りなかったのか思い出す勇者一行。

山登り何てきついからしたくないと駄々を捏ねて麓に残っていたのが女神だった。

後で転移石で迎えに来るという話をしてたけれど、武道祭の流れで二人の事はすっかり忘れていた。


「だが、お主らどうやってこの場所を…?」

「グスン…あんまりにも遅いから女神アイで勇者の居場所探してみたら皆で出店とかお祭り楽しんでるの見えたので、マジ★デスさんに全部伝えたのです」

「正直すまなかった! あとお前魔族嫌いなのに仲良くなってるのな」


昨日の敵は今日の友という奴だろうか?


「クックック…武道祭だか何だか知らないけれど、このやり場のない怒りをお前ら全員にぶつけてくれるわ―! いっけぇースカルドラゴン!」

「あ、暗黒剣」


マジカル★デスウィッチが死霊術で巨大な骨の竜を暴れさせようとするも、勇者が横から隙だらけだったスカルドラゴンをマジカル★デスウィッチと女神ごと纏めて吹っ飛ばす。


「あらー!? ふぎゃ!?」

「何で私までー!? ぐげっ!?」


バラバラに砕け散る骨の束と、頭から舞台に落ちて気絶するマジカル★デスウィッチと女神の二人。

スカルドラゴンに踏み潰された魔女とハーピィもぴくぴくしているが、一応生きているようだ。

勇者は事態を解決させたと言わんばかりに胸を張っている。


「どうするのだ…これ」


完全に混沌と化した状況に暗黒騎士は頭を抱えるのだった。


勇者歴16年(秋):何事も暴力で解決するのが一番だ。

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