第121話 邂逅、新旧風の四天王

武道祭の優勝者として魔女は蛮族の里長から表彰されていた。

その顔は蒼白で全身冷汗まみれで産まれたての小鹿の如くプルプルと震えている。

本当は予選なり、本戦の途中で剣士と当たって棄権するつもりだったので自分が優勝するのは想定していなかったのだ。

観覧席では島国の侍とかの一部の特殊性癖共が完全に興奮した状態で叫びまくっており、どうせ勝つ気もないから適当に吹聴してしまったアレな発言も思い出して完全にやってしまった感に襲われている。

淫魔時代にはまぁそれなりに経験もあるが、魔女としての経歴では一応(剣士にだけの)純情派として見せてきてたので今更本気でやる気もない。


「魔女様? 魔女様、聞いておられるか?」

「ヴェッ!? あ、いえ、ハイ?」


そんな事を脳内でフル回転させながら考えていた為、里長の話を完全に聞き逃していたので適当に返事をしてしまう。

その後ろの方で暗黒騎士が手を横に全力で振っている事に気づいて、自分が更にやらかしてしまったのだと気づいたがこの時点で手遅れだった。


「宜しい、では天空の御使い様とのご婚儀は確かに進めさせて頂きます」

「アッ!?」


直前に何を言っていたのかを把握して魔女の顔が蒼白から白へと変化していく。

暗黒騎士はアッチャ~といった様子で額を押さえて首を横に振っていた。


「では、先ずは天空の御使い様にも我らが新たな長と対面して頂きましょう」


やらかして立ったまま放心状態の魔女を放置したまま、

話だけがトントン拍子で進んでいってしまう。

観覧席に移動した剣士が不安そうな顔をしているのに気づいて、

魔女は力なく首を横に振る。


「ち、違うの…これは違うのよ、剣士ちゃん…」


もう完全に助けを求める状態で魔女が剣士へと手を伸ばしていると、蛮族達が担いだ駕籠が舞台の傍へと運ばれてくる。

双子の祭司が御簾みすを両側から捲ると部族の伝承にある衣に身を包んだ『天空の御使い』が降りてくる。

こちらもまるで全身の血色を失ったかのように顔面蒼白になっており、下唇を噛みながら産まれたての小鹿の様にプルプルしながら俯いていた。


「やばいやばいやばい、このままじゃ知らない人にマジでヤられてしまう」


そんな事を他には聞こえないように小声で呟いている『天空の御使い』。

双子に手を引かれて、というよりは連行される地球外生命体のような有様で舞台上に上がらされる『天空の御使い』。

ここで、プルプルしている二人の女が初めて顔を合わせる。


「「あっ」」


『天空の御使い』こと、新四天王風のハーピィは軟禁状態かつ参加者の情報は伏せられていた為、参加者にかつての上司で旧四天王風の淫魔女王こと魔女が参加していた事を知らない。

魔女もまた、情報こそ探っていたが、蛮族達が丁重に祭っていた為、『天空の御使い』の正体をこの時まで知る事が出来なかった。

結果、彼女たちはお互いそれが因縁深い相手だと知らずにここまで来たのである。


「な、何であんたが此処にいんのよハーピィ!?

 ちゃんと引き継いだでしょ私は!」

「それはこっちの台詞ですよ!? 何やってるんですか貴女!!

 ……ハッ!? まさか、上司時代から私の身体を狙って…!」


割ときわきわの民族衣装を着せられていた風のハーピィはさっと胸と下半身を手で隠す。


「するかバーカ、この鳥ガラ娘! ただの偶然よ!」

「なっ!! これはスレンダーというんです! ステータスです!

 貴女みたいに節操ない肉付きしてないだけです!」

「ハァァァン? これは計算され尽くしたプロポーションなのよ、

 貴女みたいに通販でこっそり豊胸セットを買うような女と一緒にしないでくださいます?」

「な、何でそれを…!? 人の履歴勝手に覗いてたんですか貴女は!」

「いやぁ~、酒の肴の格好のネタ話だったわよ?」

「ッ~~~~!! 道理であの頃の皆の視線がやたら生暖かったのは!!」

「プ~クスクス! 同情されてやんの!」

「……そっちがその気ならいいでしょう、同じ女として可哀想だから黙ってあげていたのですにそっちがその気ならこっちももう遠慮はしません」

「え、何? ほんと何、ちょ、ごめ…」

「貴女、上司時代に私達の間では『出遅れ地雷女』って言われてたんですよ?

 『年齢先行型逃げ切り』とか『性遍歴だけ凄まじい頭お花畑の乙女(笑)』とか」

「グッハァ!?」

「全く脈ないのに本人だけ気づかずに暗黒騎士殿に熱烈アプローチしてる様が滑稽過ぎていつ本人が気づくのか賭けの対象にまでなってましたからね?

 ちなみに私は50年経っても気づかないに賭けてましたけど」

「…フ、フフフフ」

「アハハハハ」


新旧風の四天王同士が舞台上で対面しながらお互いに嗤い合う。

里長は身の危険を察して、既に退避しており、暗黒騎士はどうしていいか分からずにオロオロしている。

二人の笑い声がほぼ同時にピタリと止まり、それと同時に舞台上に凄まじいまでの魔力が放たれ、暴風が吹き荒れだす。

それまではお互いに目を合わせずに俯いて笑っていた二人の風の四天王が同時に顔を上げた。


「「ぶっ殺す!!」」


こうして、不毛な風の四天王同士の戦いが此処に勃発するのだった。


勇者歴16年(秋):新旧風の四天王、邂逅する。

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