第120話 決勝戦~予想通りの結末~
決勝戦の日、剣士が控室で準備体操をしていると暗黒騎士が控室に顔を出す。
「…一つ確認するが、お主、本当に何も気づいていないのか?」
暗黒騎士の声色は重く、本気で信じられないと言った調子の声だ。
「えっ、なにをっすか? いや、あの仮面の人のが俺より確実に強いのは分かってますが、やる前から諦めるのもなんか違うじゃないっすか」
「えぇ…本気か、お主…」
暗黒騎士の声に恐怖の色が混じる、何かハーブでもやっているのだろうかと剣士に対して恐怖を抱く。
「ま、まぁいい、お主に言う事はただ一つ」
これまでは比較的に助言を控えていた暗黒騎士の言葉に剣士が息を呑む。
「お主、絶対棄権するぞ」
「はい?」
「いや、絶対棄権するから」
「いや、さっきも言いましたけど、やる前からは…」
「まぁ、言っておいたからな?」
「…ハァ、まぁいいすけど」
暗黒騎士が何を言いたいのかが剣士には分からない。
むしろ分からない事が分からないのだが、これも鈍感系主人公体質の為せる業なのかもしれない。 剣士はこの物語の主人公ではないけれど。
暗黒騎士は諦めた様子で控室を出ていく。
勇者も廊下で様子を見ていたようで、「だから私は無駄だって言ったよ」と暗黒騎士を宥めていた。
「二人して何なんだ…?」
剣士が恐ろしいものでも見たかのような様子で解説席に向かっていくのを首を捻りながら見送っていると武道祭の運営の蛮族がそろそろ時間だと伝えてきた。
「まぁ、師匠達の様子が変なのは今に始まった事じゃなぇしな…
考えても仕方ねぇ!」
両頬を叩いて気合を入れると剣士は会場へと向かうのだった。
舞台には既に仮面魔女が上がっており、剣士が来るのを待っていたようだった。
「来たわね、剣士ちゃん」
「う~ん、あんたに馴れ馴れしくそう呼ばれる理由が分からねぇんだけど」
舞台に上がった剣士が妙に馴れ馴れしい仮面魔女に頬を掻いて疑問を述べる。
「フフッ…成程、完璧すぎる変装もここまで来ると失敗ね」
「そう思ってるのお主らバカップルだけな?」
不敵に笑う仮面魔女に思わずツッコミを入れてしまう解説の暗黒騎士。
「これを見ても、まだ分からないかしら!」
仮面魔女が仮面を外し、魔術で変えていた髪の色を金から本来の紫がかった黒に戻して剣士へと微笑む。
「なっ、何であんたが…いや、魔女さんがここに!?」
「そのリアクションが出来るお主本気で怖いな」
剣士以外の観客含む一から見ていた人物にはすでに周知されている仮面魔女の正体に慄く剣士に慄く暗黒騎士。
「そうね…本来はここまで来るとは思ってなかったわ…でも、これも運命の悪戯とでもいうのかしらね…まさか決勝まで行かないと貴方に当たらないとは思わなかったわ」
正体を晒した魔女が予想外だったというように顔を曇らせる。
「私の『剣士ちゃん婚約阻止計画』がここまでかかるとはね…」
「魔女さん…」
しょうもない計画の全容を話し出す魔女に剣士は真剣な表情で見つめている。
勇者は話が長くなりそうなので審判の娘を誘ってトランプをやり出している。
「ごめんなさいね、これも醜い女の嫉妬なのは分かっているわ。
それでも私は仮初でも誰かのモノになるのは認めたくなかったの…
重い女だと笑ってちょうだい。」
「笑わねぇよ!」
顔を俯かせる魔女に正面から強い言葉が投げかけられる。
「俺は魔女さんのそういうちょっと困った面も知ってて一緒にやってきてんだよ。
酒弱いのにすぐ飲んでグダグダになる事とか、二人きりの時は普段のお姉さん口調じゃなくてちょっと幼児退行するとことか」
「え、あの剣士ちゃん?」
「夜になると(年齢制限により説明出来ません)で(とてもいい大人がする事ではない事)が(聞く人が聞いたら一生恥になるような内容)でも、俺は」
「ちょっと待って剣士ちゃん?」
「(特殊性癖の人が喜びそうな内容)を(特殊性癖の人でもドン引きしそうな内容)するのを願っていても俺は構わねぇよ!」
「ストップ!! お願い一旦止まって剣士ちゃん!」
会場は既に静まり返っている。
剣士の語った内容を聞いた会場にいた人達は後にこう語っている。
「あの男の器は色々とヤバい」と。
暗黒騎士は咄嗟の状況判断で勇者の耳を塞ぐ事には成功したが、剣士の語る内容を聞いてしまって舞台に上がっている二人に本気で引いた。
魔女を尊敬している魔法使いをここに連れてこなかった事には本当に安堵した。
なお、舞台上の魔女は既に死にそうな顔になっている。
「ふぅ…まぁ、というわけで…俺は棄権する」
剣士はそういうとすぐに自ら舞台から降りた。
「惚れた女に剣を向けるとか出来ねぇよ」
「剣士ちゃん(トゥンク)」
剣士が舞台を降りた事により、顔を赤らめてドキドキしていた審判が正気に戻り、
決勝戦の終わりを告げる勝者の名を上げる。
「あ…では、勝者は仮面魔女様!」
会場からは疎らな拍手が微かになっている。
正直見てた側だって反応に困るのが正直な感想である。
「まぁ、こうなるのは分かっていたが、お主ら忘れてないか?」
勇者の耳から手を離した暗黒騎士がうんざりした様子で二人に告げる。
「これだと魔女が『天空の御使い』を娶る事になるぞ?」
「「あっ」」
剣士と魔女の二人は思い出したように顔を見合わせていた。
勇者歴16年(秋);魔女が武道祭を制する。
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