第124話 帝国の今後について

「……え~っと、取り敢えず、解決したのだな?」


あれから会場の外に転移した暗黒騎士達は間違っても誰か立ち入って色々と面倒な事にならないように会場周辺をがっちり固めて時間を潰していた。

そうして2時間ほど経過してから会場を覗かせに行った魔女からOKサインが出たので戻ってきたのだった。

一応、身なりは整えられているハーピィと双子の司祭が待っていたが三人共若干息があがっているので凄く生々しい。


「あ、ハイ、えっと凄かった…じゃなくて、か、回復しました…」


ハーピィは目を泳がせながら暗黒騎士の問いかけに一応は返事をする。

双子の祭司は黙って俯いていて何も言わないが、手元はずっともじもじしている。


「いや、うん、それは良かったな…で、覚悟は決まったのか」

「あの…それは…あんなの知っちゃったら、もう戻れないというか…お母さんも孫が見たいってずっと言ってたし、もういいかなって…」


反応が生々し過ぎると心の中で思いつつ、ハーピィの決断に暗黒騎士は頷き返す。


「そうか…では、我らがそれ以上お主の決断に口を挟む事はない。

 お主が今後敵対するのであるならば別だが、此処で新たな生を送るだけならばな」

「それは…」


この集落の巫女という立場を得ている今のハーピィが色気を出して帝国を牛耳ろうとするならば叩き潰すと宣言したつもりだったが、その暗黒騎士の肩を魔女が叩く。


「それならば大丈夫よ、騎士ちゃん」

「え、何その顔…我、嫌な予感しかせぬのだが…」


ニチャアっとした暗黒微笑を浮かべる魔女に、率直な気持ちを伝える暗黒騎士。


「これ、な~んだ?」


魔女が懐から水晶を取り出す。


「「そ、それは!?」」


暗黒騎士達はそれが何か分からずに首を傾げているが、見覚えのある双子の祭司が驚いたように声を上げている。


「二人は分かるわよね、これ、武道祭の内容を記録していた魔導具の水晶」

「ほぅ、随分とこじんまりとしたものなのだな」

「えぇ、これは記録するだけの媒体だからね、

 投影とかにはまた別な魔導具がいるし」


魔導具には詳しくない暗黒騎士達は素直に感心しているが、双子の祭司は何かを察したのか顔色を青くしており、その様子を怪訝に思っていたハーピィもある可能性に気づいてハッと魔女の方に向き直る。


「そう、

「うん、それがどうし…お、お主、まさか!?」


暗黒騎士も魔女の言っている言葉の意味を理解して、魔女から後退る。


「私が何で、ここであんたらにあんな乱痴気騒ぎさせたと思ってるの?」


魔女は愉悦を湛えた笑みを浮かべて、まるで耳まで裂けているのではないかと錯覚させるほどに口元を歪ませている。


「うわー、真の邪悪だー」


魔女がやった事の意味を察した勇者も流石にコレには驚いた。


「あ、貴女、まさか…」

「ウフフ…もう分かってるわよね、もし逆らったら…?」

「い、いやあぁぁぁぁぁぁぁ!?」


魔女に自分の人生を握られたのだと察したハーピィが悲鳴を上げる。


「ンッン~、いい声で鳴くわねぇ…まぁ、これはあくまで保険よ。

 貴女が此処で大人しくエンジョイでエキサイティングな生活送るだけならこれが生涯出回る事はないわ」


魔女の警告に顔を蒼褪めさせたハーピィは何も言えずにただ首を何度も頷かせている。


「こ奴を最初にこっちに誘ってて良かったと、今、心底思った」


何処の闇社会の住人だよという脅迫の様をまざまざと見せられたので、足を震わせつつハーピィに心から同情する暗黒騎士。


「取り敢えず、定期的に様子見に来るけど、この鳥ガラに子供出来たらあんたらの仔だってのは黙っといて私が魔術で作った子供だって事にしといてね。

 掟だろうが何だろうが黙ってりゃバレやしないから、いいわね?」

「「ハ、ハイ!」」


魔女の指示に対して、まるで鬼教官にしごかれた新兵の様に同時に直立して返事を返す双子の祭司。


「いいのかなぁ…堂々の浮気させ宣言だけど」


いくらハーピィに楔を打っとく為とはいえ、罪悪感を覚えて苦笑している剣士。


「あら、良いのよ。 だって、私はもう剣士ちゃん意外とそういう事をする気はないんだし」

「その気持ちは素直に嬉しいんすけどね…手段が…」


笑顔で腕を絡ませてくる魔女に、これでいいのか悩む剣士。


「ま、いいんじゃない? 再起不能の精霊姫と違って、

 こいつは一応まだ現役な訳だから何もしないならブッ倒すしかないし」


そんな風に悩んでいる剣士の背中を魔族娘が強く叩く。

この状況でハーピィを見逃すならこれくらいしといた方が無難ではある。


「まぁ、ここの蛮族達も一応私の傘下って扱いになるし、

 これで一件落着じゃない?」


地面に両手を突いて落ち込んでいるハーピィを余所に魔女が気楽そうに告げる。


「まぁ、それもそうであるな…取り敢えず、一旦、村に戻るか…」


暗黒騎士が転移石を取り出そうとして、

ふと、妙な気配を感じて視線を遥か彼方の魔界へと向ける。


「…何だ、この波動は…?」


暗黒騎士の呟きと同時に、軽い地響きが山脈を襲う。


「お、おぉ、揺れてるね?」


勇者や剣士達も急に襲ってきた地震に驚いている。

自然現象にしては妙に間が合うのを暗黒騎士は気にかける。


「…気のせいか? まずは戻るぞ」


しかし、振動の後に妙な気配も消えた為、

暗黒騎士は妙な胸騒ぎを覚えつつも帰路に着くのだった。


勇者歴16年(秋):マジ★デス・ラブリィ帝国を魔女が掌握する。

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