第117話 剣士の準決勝~対リャマ頭~
歓声が鳴り響く中、対峙する二人の戦士。
「よぉ、今度は不意打ちは貰わねーぜ」
「フッ、ならば正面から射貫くのみ、ヒヒン」
剣士とリャマ頭はお互いに軽口を叩き合うと武器を構える。
審判はその様子を見つめ、準備が整ったのだと判断して試合開始の合図を出す。
「始めッ!」
合図と同時にリャマ頭は素早いバックステップで剣士に距離を詰めさせずに矢を弓の弦に番える。
引き絞られて放たれたのは同時3射の曲撃ちである。
頭、喉、胸へと迫る鏃を剣士は致命打で有る頭と喉への矢を二刀で弾き、胸へと迫る矢は体を捻じらせて回避しようとするも、
「なっ!?」
避けようとした矢は途中で軌道を曲げて回避しようとした先へと迫る。
咄嗟の判断で腕を片腕を下げて腕で矢を受けて胸への被弾は避ける。
「グァ…クッソ、仕掛け矢かよ!」
腕に刺さる矢の風切羽には細かな傷が入れられている。
それが微妙な空気抵抗の変化を生み、軌道を曲げるのだろう。
「ほぅ、すぐに気付きますか、流石ですね。 ではこれならどうです?」
足を止めてしまった剣士へ、リャマ頭は追撃の手を止めずにすぐさま次の矢を引き、またもや同時3射の矢を放つ。
今度は正面・左右へとそれぞれ放たれた矢が射手にしか分からぬ微細な変化を伴いながら剣士へと迫る。
「チッ、仕方ねぇ! 闘気の構え…烈牙!」
2回戦で見せた衝撃波で自身へと迫る矢を全て撃ち落とす。
すかさず剣士も機を逃さずに一気にリャマ頭へと迫るが、
「その技は見せてもらっています、よもや通じるとお思いか?」
リャマ頭は両手を前に突き出し、片足を半歩前に踏み出した構えで剣士を迎え撃つ。
剣士が振るう剣がリャマ頭を捉えようとした刹那、
剣士の見る世界が上下反転した。
「私をただの弓術師と侮りましたね?」
剣士が体感したのはリャマ頭があの妙な構えで剣士の振る剣を手甲で受けると、
まるで流すかのようにその力を逸らし、
勢いを殺せずそのままに剣士の身体が宙を舞った。
「リャマ式体術『流れ』…続けて」
リャマ頭が大きく一歩を踏み出し、
その背中が剣士の空中で無防備な体勢の身体に触れる。
「リャマ式体術『ボディチェック』!」
リャマ頭が舞台を踏み砕くほどの勢いで足を強く踏みしめ、その全身の体重を背中の一点に預けて加重と共に剣士へとぶつける。
「ブッ…オグェ!?」
ミシミシと全身の骨が軋みを上げ、アバラの数本が砕け散る感覚を味わいながら剣士は衝撃と共に弾き飛ばされる。
リャマ頭のそれまでの試合では隠していた体術の大技である。
何の対抗策も持てずに剣士はそれを真面に受けて血反吐をまき散らしながら舞台を転がる。
「勝負を急きましたね。 残念です」
リャマ頭は勝負あったとばかりに嘆息しつつも、油断せずに弓に次の矢を番える。
冷酷に見定めて、動けぬ剣士の頭へと矢を放つ。
瞬間、全身を悪寒が走り、思わず身を捻らす。
それまで自分が立っていた場所が、目の前で断たれていた。
「……ここにきて開眼しましたか」
それが意味する事を理解し、目線を倒れている筈の剣士の居た場所へと向ける。
倒れていた筈の剣士はいつの間にか立ちあがっていた。
全身の力が抜けていて、両手の剣も握っているだけで、
その姿はさながら幽鬼の様でもある。
「ゴブッ…」
立っていた剣士がその場で血反吐を吐く。
明らかに負傷は深刻であり、試合開始前のような気迫はない、それでも、
リャマ頭はその場を動く事が出来なかった。
「何となく分かった…今までは余計なもんを入れ過ぎてたんだって」
掠れた声で剣士が呟く。
「ただ、斬る事だけを考えりゃいい…成程な」
剣士の片腕が消えた。
いや、消えたように見えるほどに神速で腕を振るったのだ。
「ウッ!?」
直感が働き、咄嗟に両腕の手甲を重ねて防御の姿勢を取るリャマ頭。
カランカランと手甲が割れて舞台を転がり、
剣士から離れた場所に立つリャマ頭の両腕からも血が噴き出す。
「グアァァァァァ!?」
何が起きたのかも理解出来ないほどの斬撃の痕にリャマ頭が絶叫を漏らす。
「感謝するぜ、あんたは強かった。 マジで死ぬかと思った。
そのお陰で、生き汚くも死にたくねぇって思えたからさ」
それまでの脱力した姿勢から、改めて二刀を上下に構えた姿勢を取る。
「こいつが、あんたのお陰で見えた真の俺の剣だ」
いまだ、口からは血を零しつつも剣士は姿勢を崩す事もなく闘気を研ぎ澄ませていく。
「闘気の構え…烈牙ッ!」
二刀に研ぎ澄まされた闘気を上乗せし、余分な力を抜けた事で神速の域へと至った剣をリャマ男へと振るう。
それは舞台に十字の痕を刻み込み、
リャマ男の立っていた場所の手前を切り裂いていた。
「ふぅ~…どうする、まだやるかい?」
剣士が口の端を吊り上げて不敵な笑みを漏らす。
それに対してリャマ男は首を横に振ると、
「降参する、このような技を見せられては負けを認めざるを得ない」
前腕を半分ほど断たれた両腕を高く上げて降参を表明する。
その意志表示に審判が頷くと、
「勝者、剣士殿!」
と、剣士の勝利を高々と宣言する。
「あ―…吠えてぇとこだけど…もう無理」
審判の勝利宣言を聞き届けた剣士はそのままふらつくと前のめりに舞台に倒れそうになる。
それを暗黒騎士が支える。
「見届けたぞ、お主の剣」
「…ッス」
師の声を聞き、そこで剣士の意識は途切れた。
勇者歴16年(秋):剣士、準決勝を勝利する。
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