第113話 剣士の2回戦~剣士、試合に備える~
その後、1回戦の試合が全て終了し、日も暮れた為に2回戦以降は明日からという事になった。
控室に待機していた剣士も闘技場を出て、勇者達に合流する。
「1回戦は相手の半分自滅のような結果だったから大した苦戦もしなかったが、
明日の相手は違うぞ? それは自分で分かっているようだがな」
合流した暗黒騎士に釘を刺される。
「いきなり厳しいっすね、師匠は…まぁ、でも俺もこのままじゃ良くて二割程度しか勝算ないのも事実っすけど」
その言葉に苦笑しつつ、剣士は頭を掻く。
剣士もこのままでは自分の勝ち目は薄いというのは理解している。
剣士はまだ、あの分身の術の攻略法を見いだせてはいない。
「助言はせんぞ?」
「分かってます、むしろ師匠からそんな事してきたら怒りますよ?」
この武道祭はあくまで自分の今の力量を測りたいという意趣もある。
ここで安易に暗黒騎士に頼るのは自分の実力とは言えないのだから。
「ま~、兄弟子なら大丈夫だと思うよ。 私でも攻略法は思いついたし」
「言ってる側から、そのような事をするな勇者よ…」
暗黒騎士は助言はしないが、そういう空気は読まない勇者はそんな言葉を漏らしてしまう。
「お、おぅ、応援ありがとうな」
それをあくまで応援という形で受け止めつつ、剣士は勇者の言葉の意味を考える。
「大丈夫なの剣士ちゃん? 相手は殺す気で来てるようだし棄権してもいいのよ?」
考え込む剣士を心配するように魔女が傍に寄り添ってくる。
やたらと棄権の部分だけ強調していたような気がするが多分気のせいだろう。
「大丈夫っすよ、魔女さん。
あと勇者達も見てるんであんまり今はそういうのは…」
「部屋でやれ部屋で」
顔を赤らめて二人だけの空気を作りつつある剣士と魔女をジト目で眺めながらシッシッと手を振る魔族娘。
「まぁ、でも今日は一人で集中したいんで俺はここで戻りますね。
魔女さんもいつもみたいにあんま夜更かししないで下さいよ?」
「そ…そんな…」
そっと距離を取って魔女から離れると、笑顔で魔女を制して一人で帰っていく剣士とそれにショックを受けてその場で立ち尽くしている魔女。
そんな光景を見ていた暗黒騎士達は「普通に泊まり込みとかしてるんだな」と口には出さずに思っていた。
部屋で一人瞑想していた剣士は勇者の言葉を思い出す。
『私でも攻略法は思いついたし』
基本、勇者は相手の出来ない事は把握している、その上で出来ない事は出来ないとハッキリ言う類の空気の読まなさだが嘘はつかない。
ならば、既に剣士もあの分身の術への対処法を身に着けているということ。
その可能性を見出し、小さな光を掴み取る為に意識を集中させる。
「師匠達に出来て、俺にも出来る事ってなると…これしかねぇからな」
魔力を殆ど持たず、呪いへの適正もない剣士では暗黒剣は問題外。
暗黒騎士からの直伝の剣技はあれど、それだけであの魔族に通用するとは思えない。
ならば、残っているのはあの技しかない。
明日の決戦に備える為に、より瞑想を深めていくのだった。
朝、起床を促す為に魔族娘が剣士の部屋の扉をノックしようとすると、
「おっ、もうそんな時間か? 今行くわ」
彼女の手が扉を叩くよりも早く、剣士のそんな声が聞こえて扉が開く。
上半身裸の剣士が顔を覗かせた為、魔族娘は赤面しつつも慌てて周囲を見回す。
「…? 何慌ててんのお前?」
「ばっ、声出すな!? 魔女にこんなの見られたら私が殺されるわ!?」
「…いや、そんな事しないだろあの人は?」
「お前の惚気で私が死ぬ!」
キョトンとした顔の剣士に対して必死の形相を浮かべる魔族娘。
彼女は剣士と初対面の頃に彼に言い寄っていたのが原因でトラウマになるほどのアレソレを刻まれた事があるので必死である。
「いや、あやつは既に出ているのでここには居らんぞ…」
横からそれを眺めていた暗黒騎士が呆れた口調で魔族娘に伝え、彼女は気が抜けたのかその場で脱力している。
それを横目にしつつ、暗黒騎士は剣士に近づくと、
「大分、感覚を掴めたようだな」
「まだまだ、勇者にも及んでないと思いますけどね…でも、やりますよ俺は」
確かな自信を持った顔で暗黒騎士を見つめる剣士に、暗黒騎士は小さく笑う。
「まずは着替えて軽食くらいは入れておけ、試合で腹が鳴ったら笑い種だぞ?」
「…準備します」
上半身裸のままだったのを思い出し、剣士は慌てて部屋の扉を閉める。
「本当に大丈夫なの?」
昨日の黒装束の魔族の所業を思い出して不安そうな魔族娘に対し、
暗黒騎士は軽く肩を叩き、
「お主もあやつを信じてやれ。 勝てるというのならそうなのだろう」
それだけを伝えると未だ爆睡している勇者を起こしにその場を後にするのだった。
勇者歴16年(秋):剣士、影の魔族との試合に備える。
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