第110話 御使いは辺境をプランニングする

時間はハーピィが拉致された日に遡る。

ハーピィが拉致されてから数日、彼女は蛮族達に丁重に扱われていたが、

彼女には不満があった。

元来、仕事人間である彼女にはいくら蝶よ花よと大切に扱われても素直に喜ぶ事は出来ず、むしろもっと雑でいいから何かがしたかったのである。

その日も、司祭長の息子だというあの日にハーピィを撃ち落とした双子が世話に来ていたので何となく尋ねてみた。


「例の婿取り用の計画は上手くいってるの?」


人界・魔界にわざと目立つように建国を宣言して注目を集め、そこで武道会の開催を告知して腕自慢を集めるというものだが、進展が気になったのだ。


「微妙な所ですね、元々、我らは両界共にあまり評判は良くなかったもので…使いを人里に下ろしてはいますが」

「う~ん…今はどういう風に告知しているの?」

「そうですね、我らの集落で武道祭を開き、巫女様の婿を取るといった感じですね」


双子の兄の方の言葉にハーピィは顔を顰める。


「何というか…あまり旨味を感じないわね」

「そうでしょうか? 我らとしては十分名誉な事だと思うのですが…」


蛮族と自分達では風習にも隔たりがあるので、その辺の微妙な違いがあまり分からないらしい。

そこでハーピィは自分にとっても有意義なを思いつく。


「そうだわ、いっそ皇帝の座も差し出すと言ってしまえばどう?」

「皇帝の座ですか…? そのような物を喜ぶのでしょうか?」


蛮族にしてみれば名ばかりの帝国の看板であるので、別にその座を差し出すのは構わないし、そもそも強い者に従うのは彼らの道理である。

一方、ハーピィにしてみればこの座を差し出すともなれば蛮族の戦力を危険視している魔王軍としても、丸々蛮族が戦力に加わる可能性があるのは放置する訳にもいかず、何かしらの動きがある筈だ。

そこで自分の存在に気づいて貰えれば万々歳である。


「分かりました、里長にもその用に伝えてみます。

 まずご要望通りになると思いますが」

「ありがとう、頼むわね」


礼をし、ハーピィが軟禁されている巫女の部屋を出ていく双子。

彼らを見送った後に、窓から外の風景を眺める。

何というか、とても寂れている。

外部との交流を最低限にし、狩猟と寒冷地でも育つ極々小規模な農耕で暮らしている彼らは技術力こそあるものの、それを活かす価値観を持ち合わせていない。

これを勿体ないと感じて仕事人間としての性が鎌首をもたげた。


次の日、いつも通り世話をしに来た双子にハーピィはこのままでは例え来訪した武芸者も武道祭の開幕まで居つく事なく帰ってしまう可能性などを熱弁し、

蛮族の双子の中に新たな価値観を植え付けていく、

ちなみにこういうのを洗脳とも言うが、あくまで善意なのでご愛敬。

武道祭出場者用の居住区の開発、武道祭の試合会場の建設を急ピッチで進めさせるのと同時に容姿の優れた蛮族の娘達を集めさせ、接待の心得を叩きこんでいく。

この集落では美醜はあまり評価とは無関係だったが、外の世界ではそういったものもであると説明すると、始めは面倒臭そうだった彼女達も乗り気になった。

「強さ」という価値基準を持っている蛮族達は、単純にそれを武力として認識していたので、その新たな認識は武力に優れずに燻ぶっていた彼女たちのやる気に火をつけるには十分だった。

旧上司の淫蕩っぷりも、この時ばかりはハーピィにはありがたかった。

あの時のクソのような教えがまさかここにきて役に立つとは夢にも思わなかったのであるし、実際、そういうお店じゃないと普通に役には立たない。

その結果生まれたのが、件の半観光地「マジ★デス・ラブリィ帝国」なのだった。


勇者歴16年(春);風のハーピィ、蛮族をプランニングして開拓させる。

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