第109話 組み合わせ発表と初戦の相手
予選が終わって本戦開始は会場の準備などの為に2日後となる。
その間に武道祭本戦出場者は組み合わせを決める為に抽選を行う事となった。
一枠は仮面魔女により空枠となった為、余った分をシード枠に宛がう事となる。
強引にねじ込んだ枠の為、一組だけ1戦多く戦う事となる為、
本戦出場者達もそれぞれの思惑を込めながらくじを引いていく。
よく考えたら元から7組14名(13名)だとどうやったって一組余るのでこれは完全にミスである(誰とは言わない)。
「あっちゃ、1番とは初っ端とはついてるんだかついてないんだか…」
1と書かれた数字のくじを持って頭を掻く剣士。
まぁ、シード枠には当たらないので既定の4回勝てばいいなら楽な話ではある。
「フフフ…随分と余裕ね、私と当たる前に棄権した方がいいんじゃないの?」
そんな剣士に話しかけてくる仮面魔女。
「いや、あんた引いたの13番でシード枠だろ? 当たるとしたら決勝なんだけど?」
「フフフ…え、嘘? あっ、ほんとだ…」
自分のくじと組み合わせ表を確認して何故か慌てだす仮面魔女。
「え、ちょっと待って、これだと剣士君を途中で棄権させて私も下りるプラン成り立たなくない? ……え、私が最悪誰か知らん女を嫁に貰うの?」
1人で何やらぶつぶつ呟いている仮面魔女に剣士は臆する事無く。
「まぁ、あんたは間違いなく決勝で当たるだろうが、手加減は無用だ!」
「え、あ、うん…」
剣士の言葉にも心ここにあらずといった様子の仮面魔女に拍子抜けするも、
何かこの人物なりの思惑があるのだろうとその場での追及はせずに暗黒騎士達の許へ向かおうとすると、目の前に一人の青年が立ちはだかる。
「やぁ、初めましてかな! 噂は兼がね聞いているよ、『二刀の剣士』君!」
赤い装束に赤の羽根付き帽を被った目に痛いカラーリングの細剣を帯刀した青年は気さくに剣士へと話しかけてくる。
「全身赤色の冒険者…あんた、『薔薇の貴公子』か」
ちょっとあまりの目に痛さで目を瞬かせながら剣士も青年の異名を呼び返す。
「かの有名な大会荒らしに存じて貰えているとは光栄だ。
運悪く君とは巡り合う機会が今までなかったからね」
服装のセンスは痛々しいが、薔薇の貴公子と呼ばれるこの青年の噂を剣士もよく知っている。
卓越した技と、巧みな戦術でソロでもチームでも第一線で活躍している冒険者だ。
最近も結構大物の魔獣を討ち取ったりしたと噂は聞いた事もある。
「そんなあんたが俺に何の用?」
「用と言うほどの用でもないよ、本戦ではよろしくってだけさ」
そういって、青年は「2番」と書かれたくじを剣士に見せる。
「ハァ~、なるほどね。 初戦から結構な大御所と当たるもんだぜ俺も」
「フフフ、こちらも君が予選で見せた程度の腕で終わるとは思ってないよ。
お互いに悔いの残らぬ良い試合をしようじゃないか!」
爽やかな笑顔を浮かべると真っ赤な青年は背を向けて、その場を去っていく。
青年の傍を通り過ぎる人が皆、
やたら瞬きしているのでやはりあまり目にはよくない。
「確か、アレで毒とかも使うんだよなあの人。
まぁ、プロっちゃプロだよなぁ」
相手は競技者ではなく、実戦を戦い抜いてきた実力者だ。
様々な非情な手段も持ち合わせている。
それは卑怯でもなんでもなく、対策出来ぬ方が悪いだけだ。
「そっち方面はあんま得意じゃねぇし、他人に頼るのもなんか違うんだよなぁ」
あまり搦手が得意ではない剣士には苦手とする相手ではあるが、
そういった相手を乗り越える方が剣士としても都合が良い。
剣士にしてみれば優勝後の権利何ておまけにしか過ぎず、
適当に誤魔化すつもりでいる。
それよりも、薔薇の貴公子やリャマ頭、それに仮面魔女といった強豪を正面切って乗り越える事こそが彼にとって最大の報酬なのだから。
「ま、今は取り敢えず師匠達に抽選結果伝えるか」
思わず狂相を浮かべそうになる顔を張り、気持ちを切り替える。
根っこの部分が好戦的なのは子供の頃からの自分の悪い癖だ。
暗黒騎士達に今日の結果を伝えに行き、剣士はそこで意外な事を知る事になる。
「え、今回の試合全部記録されるんすか!?」
「うむ、我、その為の解説頼まれた」
「ハァァァァ?」
解説の襷を掛けた暗黒騎士と、実況の襷を掛けた勇者はちょっと嬉しそうに剣士に今回の大会は全て魔導具で記録し、各地のギルドなどに参考資料として高値で売る事を説明した。
里長直々に試合の様子を解説して欲しいと頼まれて暗黒騎士は浮かれている。
「全力で実況するから期待しててよ兄弟子!」
「あんたら二人、本当にそういうノリ好きだな!?」
こうして、負けられないだけじゃなく、恥も晒せない理由が増えた剣士だった。
勇者歴16年(秋):本戦の組み合わせと、武道祭の本戦全収録が決まる。
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