第108話 予選突破と舞台裏
剣士の組が終わった一方、他の予選でも目覚ましい活躍を見せる者たちが居た。
影を自在に操る者、巧みな連携を見せた双子、特殊な連節剣を自在に使いこなす者などが次々と予選を突破していく。
「あ―…あの双子は2対1でやってみたかったなぁ、個人戦だからなぁこれ」
予選で素晴らしい動きを見せていても、本戦は個人戦の為、連携は意味をなさない。
他の予選突破者を見定めていた剣士はそれを残念に思いつつ、
一番注意すべき相手のいる組の試合が始まろうとしていた。
「次、緑の組は壇上に!」
審判の合図に従い、猛者達が舞台に上がり、互いをけん制している中、
「おいおいおい、マジか!?」
仮面の魔女は自ら舞台の中央に立ったのだ。
それは目立つなんてものじゃなく、狙ってくださいと言わんばかりの態度である。
「先に確認しときたいんだけど」
「えっ…あ、私ですか!?」
仮面の魔女は審判の娘に振り返り、話しかけられた審判が慌てている。
「えっと、何でしょう?」
「私以外残らなかったら、予選はどうなるの?」
その仮面の魔女の言葉に周囲の猛者達の空気が冷たくなる。
「えっと…その場合は一枠不戦勝扱いかと…」
「そう、なら手っ取り早くていいわね」
仮面の魔女は妖しく微笑む。
その態度を挑発と受け止めた他の猛者達が言葉は交わさずとも、
互いに最初の目標を定めた。
全員であの不遜な魔女を真っ先に倒すと。
その空気を察した審判は仮面の魔女から逃げる様に小走りで離れると、
「は、始めッ!」
試合開始の合図を告げる。
同時に、仮面の魔女を囲むように猛者達が襲い掛かるが、
「『
仮面の魔女はその場から一歩も動かずに、無詠唱で魔法を放つ。
仮面の魔女を中心とした荒れ狂う竜巻が舞台上を覆いつくし、
次々と猛者達が弾き飛ばされていく。
最後に弾き飛ばされた猛者が壁面に叩き付けられると、嵐はようやく収まる。
舞台上に残っているのは既に仮面の魔女ただ一人だけだ。
周囲で呻き声挙げて動けずにいる猛者達を蛮族の者たちが確認し、全員戦闘不能と判断して首を横に振る。
「そ、それまで! 今回は一人しか残らなかった為、一枠は不戦勝扱いとします!」
慌てて勝利を告げる審判娘に投げキッスをしつつ、舞台を降りる仮面の魔女。
チラリと横目で剣士を見ると、傍を通り過ぎる時に一言だけ告げていく。
「これでも降りる気にはならないかしら?」
フッと妖しく微笑みながら歩み去る仮面の魔女に剣士はその場から動く事すらできなかった。
なお、この時点で未だに仮面の魔女の正体に気づいてはいない。
それはそれとして、観覧席で予選を見ていた暗黒騎士の横に意外な人物が座る。
「よもやとは思いましたが、まさか本当に貴方様でいらっしゃるとは」
「…里長か、良いのかこんな所に来て?」
暗黒騎士の隣に座った里長は呵々大笑すると、
「一度は我が里の戦士を全員打ち破った方を放っておく道理もありますまい」
そう言いながら、胸元を開いて大きな傷跡を見せる。
「お陰で、私も戦士としては退かなければいけなくなりましたしな」
「嫌味か?」
「誉め言葉ですよ」
二人のやり取りを興味深そうに眺めていた勇者が二人に尋ねる。
「知り合いなの、おじさま?」
「知り合いというか、前にこ奴らが魔王軍にちょっかいをかけてきた時に我と当時の四天王が全員打ちのめした」
「はっはっはっ、アレで我が部族の者全員が暫く気落ちした者ですよ。
して、あの仮面の者は当時の四天王の一人で御座いますよな?」
里長の質問に暗黒騎士が何とも言えずに目を泳がす。
「あ~…いや、うむ、それで有っているが、あのだな。
アレは勝ち抜ける気はないから放っておいてやってくれんか?」
「フム、我らとしては強さを証明されれば別に誰でも構わんのですが…
まぁ、承りました」
暗黒騎士の言葉に不可解そうに顎髭を撫でる里長。
「それで、わざわざそんな挨拶だけをしに来た訳でもあるまい?」
「えぇ、その通りです。 騎士殿の腕を見込んで頼みがあります」
「我は今回、戦う気はないぞ?」
暗黒騎士の言葉に里長はまた呵々大笑すると、
「いえいえ、そうではなく本戦の試合を解説して頂きたいと」
「…ハァ?」
勇者歴16年(秋):武道祭予選が終わり、暗黒騎士が解説を頼まれる。
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