第107話 集う強敵、武道祭予選開始

武道祭の開始期日を迎えた。

集落に集えなかった冒険者や腕自慢達はこの時点で落選となる。

集落の奥、蛮族達が1か月近くかけて魔法で山脈を削り、

加工した闘技場に自然の迷宮とも言える北部山脈を越えてきた猛者が集う。

その中には剣士と謎の仮面魔女の姿も含まれていたが、

他にも人族だけでなく魔界から来た魔族と思われる者も複数含まれていた。


猛者達の前に集落の長である老人が娘達に付き添われながら歩み出てくる。


「ようこそ集まった、古今東西の猛者達よ。

 我々は其方達を歓迎する!

 だが、果たしてこの中から何名が命を残してこの地に残れるかは分からぬ。

 しかし、最後に立っていた者こそ我らが新しき長であり、

 我らの神子の父となる存在なのだ!」


里長の言葉を猛者達はそれぞれの思惑を秘めて聞いている。

だが、皆が思っているのは同じ事、


『最後に勝ち残るのは自分だ』


という、自身の武への絶対の自信である。


開幕の言葉を終えた里長が舞台を降り、

舞台に残っていた娘がこれから始める予選についての説明を始める。

初めに猛者達に配られるのは無色の透き通った小さな水晶。


「今から、それにこちらで魔力を込めます。

 光った色に応じて組み分けをして勝ち残りをかけたバトルロイヤルを行い、

 最後まで残っていた2名が予選突破となります!」


娘の説明が終わると、会場に居た蛮族の娘達が祈るような仕草で魔力を込め、猛者達の持つ水晶が七色に分かれて輝きだす。


「俺は赤か…あの仮面の人は…緑か、ある意味助かったかもな」


自分の持つ赤く輝く水晶を握り、仮面魔女の水晶が別な色な事に安堵とすぐに戦えなかった無念さが入り混じった複雑な感情を抱く剣士。


「まずは赤の猛者達は壇上へ上がってください!」


そんな剣士の思いを待ってはくれず、さっそく予選開始の声がかかる。


「ッシ! やるか!」


迷う自分の頬を叩き、気合を入れ直して壇上へ上がる剣士。

観覧席では暗黒騎士や勇者達がこちらを応援してくれているようだ。


「へへっ、何だお前…ガキのお守付きかよ」


そんな剣士を傍にいた荒くれ者が嘲る様に皮肉る。


「あ~、まぁ、お守なのは認めるわ。それよりもあんたはいいのかよ?」

「あん?」

「あんた程度の奴が、このまま俺の傍にいてもいいのかよって事」


剣士の言葉の意味が分からずに一瞬、呆けるがそれが「真っ先に俺に倒されるけどいいのか?」という意味だと気づいて荒くれ者の顔が朱に染まる。


「それでは…始めッ!」


それと同時に審判の娘の予選開始の号令がかかる。


「死んだぞ! てめぇ!」


荒くれ者は背負っていた巨大な斧を頭上で振り回すが、


「おっせぇよ」


鞘をしまう音が背後で聞こえ、両肩から袈裟懸けに十字に斬られ、

傷口から血をまき散らしながら気絶する。


「安心しなよ、命までは取らねぇから」


傷は浅くはないが、処置が間に合えば死には至らないだろう負傷を一瞬で与えた剣士に観覧席の者や予選を見守る猛者達もどよめく。


「さて、他の人らもかかってきなよ? どうせ残るのは二人だけなんだろ?」


余裕の笑みを浮かべ、剣士が残る壇上の猛者達を挑発する。

その挑発に激高して襲い掛かる猛者を剣士は次々と迎え撃っていく。


「うわ~、兄弟子狡い」

「いや、アレは挑発に乗る方が悪い。

 アレを単に卑怯とは言えんな」


観覧席の勇者が普段の剣士ならばしない安い挑発に呆れるが、

それを暗黒騎士が諫める。

あの程度の挑発で心を乱す方が悪いのだ。


挑発に乗らなかった猛者達もお互いに潰しあい、残っている者も最早数名。


「さて、次は…」


目標を定めようとした剣士の眼前に迫る鏃。

咄嗟に首を捻って際どい所で避けた剣士の背後でその矢に討たれた猛者が倒れる。


「やりますね…貴方を落とせれば最善だったのですが、あそこから躱すとは」


剣士の視線の先には短弓を放ったと思われる頭部がリャマの男。

姿は滑稽だが、実力は本物な事が剣士には伝わってくる。

剣士が身構えようとするも、


「それまでっ!」


審判の娘の声がかかり、腕を止める。

気づけば、もう残っているのは剣士とリャマ男のみだった。


「どうやら、勝負はお預けのようですね。

 本戦で会える事を祈っております、ヒヒン」


短弓をしまい、リャマ男が壇上を降りていく。


「ハァ~…マァジで自信失くすなぁ、これ」


仮面魔女に続いて現れた強敵に、

自分が慢心していた事を恥じつつ剣士も壇上を降りた。


勇者歴16年(秋):剣士、武道祭の予選を突破する。

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