第106話 剣士、謎の仮面魔女に宣戦布告される
「つまるところだ」
半分観光地化している蛮族の集落にて、マジ★デス喫茶と名付けられた喫茶店の一角で、集落がどうしてこんな事になってるのかを暗黒騎士達は集めた情報から纏める事にする。
「その『天空の御使い』とやらは蛮族達を啓蒙し、人を集めるならば人を逃さぬ魅力も同時になくてはならないと蛮族達に刷り込んだらしい」
「良いのか悪いのか分からない判断の難しい所だね」
相槌を打ちつつ、山脈の白い愛人と名付けられたホワイトチョコを齧る勇者。
不正はない。
「蛮族達も無駄に基礎能力は高いからな、『天空の御使い』の提案する案を積極的に取り入れた結果、今に至るようだ」
「結果的に田舎っぽさを売りにしなかったのは個人的にはマイナスだなぁ」
「何で観光地化の方にガチの駄目だししてんの?」
勇者のガチダメ出しに若干引きつつ、剣士は一旦飲んでいたお茶を置く。
「それでも、かなりの腕を持った連中が集まってるのは事実っすよ」
環境こそ想像してたのとは違ってちょっと残念な事になっているが、武道祭の噂を聞きつけた腕自慢の猛者が日々集落に集いつつある。
「ウム、我も出来れば参加したかったものだが…」
蛮族の女性の肩を抱いて通りを歩き過ぎていく暗黒騎士から見ても凄腕の冒険者の姿を見て、暗黒騎士も残念そうにしている。
暗黒騎士は今回の武道祭には出場しない事を先に勇者一行には表明していた。
「そりゃまぁ、おじさまはお母さん一筋だしね」
「ブーッ!?」
「ウワッ、汚ッ!?」
飲んでいた紅茶を勢いよく正面に居た魔族娘に吹き出す暗黒騎士。
「ナ、ナンノコトカナ、ユウシャヨ」
「滅茶苦茶動揺してるじゃないのよ…」
顔にかかった紅茶を拭きつつ、思わず片言になる暗黒騎士に呆れる魔族娘。
「いや、気づかれてないと思うの無理があるよ、おじさま?
水上都市でも二人で美術館とか行ってたの知ってるんだからね?」
隠していた秘密を知っている勇者は一見にこやかだが、その眼には「いい加減ケジメつけてよ?」という想いが込められているのが他の面子にも見て取れる。
「そ、そそそ、そういうのは個人情報の侵害だと我はお、思うのだな」
震えすぎて殆ど中身が零れたカップを手に持ったまま誤魔化そうとする暗黒騎士。
この期に及んでも逃げ腰で剣士達は笑ってない勇者の目が怖い。
「あらあら、随分と余裕そうね」
其処に掛けられた声。
「あっ、誰だよ…失礼じゃねぇの?」
暗黒騎士達に代わって振り向いた剣士は声の主が放つ殺気に思わず、
両手を剣にかけてしまう。
「随分と偉いもんを当ててくれるな、何のつもりだ?」
理性で寸での所で剣を鞘から抜くのを堪える。
しかし、相手の殺気から滲み出る強さは今まで体験した事がないものだ。
「フフフ…貴方も武道祭の出場者なのでしょう?
ここでライバルの腕前を測ってみるのも悪くないかなってね」
顔の上半分を覆う仮面を被った金色の髪を後ろで一つ縛りにした軽装の女冒険者は余裕の笑みを崩さずに剣士を見つめている。
「……ここでやろうってのかい?」
「それも悪くないかもしれないけれど…ここじゃ目撃者が多すぎるわね。
本戦で会いましょう? その時に私が貴方を叩きのめしてあげる」
仮面の女が剣士に対して挑発してくる。
だが、その言葉に見合うほどに剣士に感じ取れるのは底の見えぬ仮面の女の実力。
それに剣士は冷や汗を垂らし、口腔内の渇きを覚えた。
「フッ…あんたみたいな実力者に認められるなんて光栄だな。
だが、俺だって負ける気はねぇぜ!」
それでも剣士は仮面の女から目を逸らさずに口の端を吊り上げる。
「……フゥ、では期待しているわ」
仮面の女は踵を返し、歩み去っていく。
「ハァァ~…ビビったぁ…何だよあれ、師匠クラスじゃねーの? 世界は広いなぁ」
完全に視界から消えたのを確かめると剣士は完全に脱力して椅子にへたり込む。
今の剣士で勝てるかどうかは本当に微妙な相手だった。
だが、暗黒騎士達の反応は違う。
「いや、あれ何処から如何見ても変装した魔女だよな?」
「うん、何で兄弟子は気づかないのか逆に凄い」
「いや、あの魔女も目的よく分かんないんだけど!?」
そんな風にひそひそ話し合う。
仮面を付けて髪の色変えていたけれど声と体型で完全にバレバレなのだが、
何故か
「ごめんなさい、お花摘みに行ったら迷っちゃって…あらどうしたの剣士ちゃん?
疲れちゃった? 棄権する?」
仮面の女が去っていった方から白々しく走ってきた魔女がへたる剣士を甲斐甲斐しく世話しようとしている。
それを眺めて3人は察してしまった。
『
勇者歴16年(春):剣士、謎の仮面魔女に挑発される。
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