第103話 剣士、強制される
人界大陸北部にある山脈。
険しい地形と自然環境により、天然の要塞とも言える場所である。
其処で新たに独立を宣言したマジ★デス・ラブリィ帝国。
馬車を走らせて、彼らが住むという山の麓まで辿り着いた勇者達が見たものは、
これから登山を始めようとしている屈強な冒険者や戦士などの腕に覚えがありそうな面々の姿だった。
「何だろ、これ? 傭兵って感じでもなさそうだけど?」
馬車から降りた勇者が近くに居た髭面の戦士に話しかける。
「ねぇねぇ、おじさん。 皆ここで何してんの?」
「ん? 何だがきんちょ。 お前さんも帝国とやらの例の祭りに参加すんのか?」
「例の祭りって何?」
「んぁ、よく見たらお前さん、女じゃねぇか! 観光か?
だったら止めといた方がいいぜ、荒くれもんばっかり集まってるからよ!」
がッはッはと豪快に笑って勇者の頭を軽く叩くと髭面の戦士はその場を後にする。
「女じゃ駄目な祭りって事…?」
子供扱いされた事には大して怒りもせず、髭面の戦士から聞いた事を馬車に残っていた他の面子と共有する事にする。
「女は参加出来なくて、荒くれ者が集まる祭りを帝国は開くみたいだよ?」
「なんじゃそりゃ? 秘祭か何かか?」
今一要領を得ない話に首を捻る剣士。
「ムッ、何やら人だかりが出来ているぞ?」
がやがやと一段と騒がしく人が集まっている場所を見つけ、勇者達もその様子を覗いてみる事にする。
「やぁやぁ、貴様らは我こそはと腕に覚えがある戦士達であるな!
我は帝国より、この度開かれる事になった武道祭の説明に参ったものだ!」
山脈から降りてきたと思われる、全身に爬虫類染みた鱗の生えた大柄の男が周囲にも聞こえる様に声を張り上げている。
「この祭りの優勝者には我らの巫女である『天空の御使い』を娶る権利と帝国の皇帝の座を約束しよう! 我らの掟はただ一つ、強き者に従う事!」
鱗の部族の言葉に、周囲の荒くれ者達が歓声を上げている。
「無論、我らからも最高の戦士が参加する。 命の保証はないと思え!
それでも名誉と力を求める者は一月後にこの先にある我らの土地まで来るのだ!」
それらを声高に叫んだ後、鱗の部族は満足したように山脈を登って行った。
「ハァ? 武道祭?」
剣士が思わずそんな声を漏らしてしまった。
話を聞いていた勇者達も急に飛び込んできた突拍子もない話に面食らっている。
「フム、『天空の使者』と皇帝の座を賭けた戦か、それでこの状況も納得ではある」
他の冒険者の者を捕まえて詳しく話を聞いた所、
帝国の噂が出始めた頃からあぁやって毎日麓まで降りてきて腕に覚えがある者を呼び集め、勝者の権利を説明しているらしい。
それが噂となって冒険者達の間で広まり、こうして人が集まり始めた。
なお別に女が参加してはいけない決まりはないようだが、
子作りを前提とした勝者の権利なので意義が薄いという事だろう。
「要するにこいつらは腕に覚えがあり、且つ、嫁が欲しい連中か…」
妙にぎらついた眼光の意味も、まぁそういう事なのだろう。
「まぁ、でもあいつらの住んでる土地まで行けるのもそんないねぇんじゃないですかね? 見た感じ、中堅手前位の腕しかなさそうなのが大半ですし」
「だろうな、この山脈に住まう魔物に追い払われるのが関の山だろう」
参加条件に山脈の踏破が前提な以上、
それなりの腕がなければ辿り着く事すら出来ずに終わる。
可哀想ではあるが、その腕がない者はここで篩に振るわれる。
先程の鱗の部族は暗黒騎士から見ても中々に出来る戦士であったのが見て取れた。
「これはこれで思わぬ収穫かもしれんな。 どうする勇者よ、行ってみるか?」
「ん~……パス!」
其処で勇者に話を振ってみた暗黒騎士だが、勇者の答えは意外にもNO。
「祭りには出てみたいけど、その巫女さんと強制結婚なら可哀想だし辞めとく。
皇帝の椅子も別に欲しくないし、面倒臭そう」
「あ―…まぁ、うむ。 お主ならそうであろうな…」
立場に縛られるのを嫌う勇者には今回の話はあまり興味がそそられないらしい。
しかし、かといってこのまま放置して変な者に皇帝になられても困る。
「ならばそうだな、剣士よ」
「はい? なんすか師匠?」
振り返った剣士の肩を叩き、暗黒騎士はいい声で、
「お主も、いい加減所帯を持ついい機会だろう…往け」
「いぃぃぃぃ!?」
自分の弟子を強引に武道祭に参加させる事を決めるのだった。
勇者歴16年(春):剣士、武道祭へ参加させられる事が決まる。
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