第102話 勇者、北部の蛮族について尋ねる

取り敢えず、北部に興った謎の帝国について調べる為に行動を開始した勇者一行。

移動時間を節約する為に一旦聖都へと転移すれば、あれから半年近く経って大分復旧が進んでいる大教会が目に入る。

一つ問題があるとすれば、


「あ、あわわわわ、何故大教会の前の広場に私の像が建っているのですの!?」


大教会の礼拝堂にあった筈の元女神像で現在は魔法使い像がより目立つ場所に移動させられていた事だった。


「ウフフフフ…それは救世の徒であるお姉様の事をより深く信者の方々に知っていただく為ですわ」

「ひぃ!?」


まるで転移のタイミングを知っていたかのように魔法使いの背後に待ち構えていた聖女変態がうなじの匂いを嗅ぎながら声をかけてくる。


「より洗練されてないか…この聖女…」


実際に会うのは半年ぶり近いのに、より磨きがかかっている聖女にドン引きしつつ、取り敢えずは今回の連絡の礼をする暗黒騎士達。


「取り敢えずは早期の連絡に感謝する聖女よ、

 事が大きくなる前にこちらも動けそうだ」

「いえいえ、これも全てはお姉さまの為」

「お願いだから帰ってきて、私の信徒代表…」


女神教どころか魔法使い教の代表になりつつある聖女に遠い目をする女神。


「あ、一応は女神様をお慕いしておりますよ?」

「一応? 一応って言った今? ねぇ、今、一応って言ったよあいつ!」


暗黒騎士の肩をバシバシ叩きつつ、聖女に抗議する女神元信仰対象

でも、聖女を選んだのも自分なので自業自得ではある。


「ねぇねぇ、おじさま? 女神様の自爆はどうでもいいとして、

 そもそも北部の蛮族ってどういった人たちなの?」

「シクシクシク…」

「う、うむ、もう少しオブラートにだな…まぁいい、折角だし教えておこう」


勇者のどうでもいい発言に止めを刺されてその場に蹲っている女神を流石に哀れに思いつつも、暗黒騎士は北部の蛮族について勇者に説明する。


「まず簡単に説明しておくと、彼らは人族と魔族の混血だ。

 過去に強さだけを追求した者達が探求の果てに自分達の血統の改造を思いついて実践したのが始まりだ」

「ほぅほぅ、競走馬みたいなもんか」

「言いえて妙だな。 魔族の優れた肉体、人族の応用の利く魔力性質などを区別なく取り込む為に種族の垣根すら超えたといえば聞こえはいいが、

 実際には探求の為だけに禁忌を踏み越えた連中とも言える」


勇者の例えに頷きつつ、暗黒騎士が説明を続けようとして聖女が補足する。


「より血を濃くする為に近親交配を繰り返したのです。

 女神教としても忌むべき因習で、北部の蛮族は優れた肉体の代償に外見の異常等が多く発生し、それを呪われた結果として北の地へと追い払われたのが彼らの祖です」

「ふぅん、まぁ、あんまり好かれる要素ではないね」

「単純に理解出来ない思想故の恐怖も有ったと思うがな」


どんな場所でも禁忌と呼ばれるモノを侵すものは忌み嫌われるものである。

そういう意味でも例外なく迫害された彼らは本来は人の住むような土地ではない極寒の山脈へと追いやられた。


「しかし、彼らはその優れた肉体故にこの環境にも順応した。

 だが、当初の目的とは異なり閉鎖された環境は彼らから文化を奪い、

 蛮族と蔑まれるようになる独自の文化体型を発展させるようになったのだ」

「なるほどなぁ、ためになった!」

「人族も魔族も一度は彼らを取り入れようとしたのだがな。

 どちらからも迫害された恨みもあり、今までは中立を貫いていたようだが」


そういった歴史的経緯もあり、彼らの変節は実際とても興味深い。


「『天空の御使い』とやらの情報はあるのか?」


暗黒騎士が聖女へと尋ねると、彼女も頷き返す。


「はい、『金の髪を持ち騒乱の年に日の出と共に彼らの下に現れる翼ある者。新たなる血を受けて導く者を産み出す巫女』という彼らの伝承は掴んでおります」

「うん? それ自体が指導者という訳ではないのか?」

「みたいですね、それが生んだ子が彼らの王となる扱いのようです」


要はその『天空の御使い』とやらは偶然彼らの伝承に引っかかってしまった、

可哀想な第三者である可能性もあり暗黒騎士も不憫に思う。


「それはまた何とも…当人には難儀な話だな」

「それ以外は今の所は何の情報も得られてはいないですね、申し訳ない」

「いや、構わん。 実際の所、国の規模としてはどの程度の物なのだ?」

「そうですね…人数としては小国と大差はないですが…彼ら自体の能力が問題です。

 下手をすると中堅の国に匹敵する程度の戦力を保有してますから」


人族と魔族の戦争中に一国に匹敵する戦力の第三勢力が突如名乗りを上げている現状はあまり望ましくはない。

どちらかに加担した場合、戦況が崩れかねないからだ。


「魔王軍の側でも調査には出ているようですが、

 何かあったようで動きは芳しくないようです。

 私共としては是非このまま皆さんにマジ★デス…プッ…ラ、ラブリィ帝国の現状の調査を依頼したい所です」

「おい、今、笑ったぞこいつ」


新興勢力の名称を言おうとして肩を震わせている聖女を指さす女神。

何度でも言うが選んだのはお前だ。


「あ、あぁ、その帝国とやらの調査は引き受ける。

 教会は引き続き魔王軍の監視を頼む」

「は、ハイ…ラブリィ…プフッ…あ、でもお姉さまラブ教もいいかもしれないですね…」


何やら不穏な事を呟いているのは聞かなかった事にし、

北部への移動を開始する勇者一行だった。


勇者歴16年(春):勇者一行、聖都から北部山脈へ向けて移動を開始する。

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